先日の記録的な猛暑日に、おばあが晩ごはんに出したのは、暑さがやわらぐ冷たいそうめん! ではなく……あろうことか、熱々の鍋料理だった。
食べるとたちまち汗だくになったけど、具材は牛肉と”タコさんウインナー”という独創的な肉食鍋で、夏バテを跳ね返す力が湧いてきた。
それから雨が降り続き、気温が下がってあのサウナのような猛暑はすっかり落ち着いた。今なら熱々の鍋料理が出てきても、この前よりおいしく食べられるはず!
むしろ……せっかく過ごしやすくなった今こそ、おばあオリジナルの鍋料理が食べたい! ダシ汁の中で煮えたぎる山盛りの肉を頬張れば、まだまだ続きそうな大雨への不安もジメっとした湿気も、一気に吹き飛ぶのに違いない!
そんなことを思いながら、今日も晩ごはんを食べに行くと、テーブルに乗っているのは――フタをした大きな鍋……じゃなくて、フライパン!?
フライパンで作る料理といえば、久しぶりの冷凍餃子か、おばあ得意の”酢鶏”か……そもそも鍋ならわかるけど、どうしてフライパンをテーブルにのせているのか?
僕が驚いていると、
「そんなとこ突っ立とらんで、さっさと座りや!」
おばあの大声が飛んできた。
あわてて席に着くと―
おばあがフライパンのフタに手を伸ばす。
そしてフタを取ると、その中身は―
餃子でも”酢鶏”でもなく……これまで見たこともない、新メニューやんか、おばあ!
丸いフライパンにはイワシが丸ごと4尾も横たわり、手羽元がゴロゴロとひしめいて、見るからに食べごたえがあっておいしそう!
イタリアかスペインにこんな料理があったような……と一瞬思ったけど、食べると味付けは醤油ベースの純和風、おばあ得意の煮付の味だ。
生姜もニンニクも入っていないけど、イワシは臭みがなく骨まで食べられる。弱火で長時間炊いたようで、頭まで柔らかく味がしっかり染みている。手羽元はプリプリとした食感で、まったくパサついていない。肉と魚で味がケンカしそうだけど、うまく調和して互いのおいしさを高め合い、たまらずごはんが消えていく。
それにしても――
どうしてサラダには、半分にした生ピーマンが乗ってるんや、おばあ!
あまりのインパクトに、思わず理由をたずねると、
「トマトがなかったからや」
とのこと。
ピーマンをトマトの代わりにサラダに乗せてしまうなんて……。おばあの奇想天外な発想に驚きながら、ひとまずかじってみると、大きなピーマンは甘みがあってみずみずしく『イワシと手羽元の炊いたん』のこってりとした味にもぴったりだ!
もしかして……トマトがあったら『イワシと手羽元の炊いたん』に入れて、イタリア料理風にしていた!? その組み合わせ、絶対おいしいやつや!
そうおばあに告げると
「そんなこと、するか!」
となぜかキレられた。ピーマンは丸ごとでOKなのに、どうしてトマトに火を通すのは抵抗があるんや!?
おばあの怒声を聞き、料理を食べすすめていると、何だかまた体の底から力が湧いてきた! 熱々のオリジナル鍋料理じゃなかったけど、これでまた、暑くなっても雨が降っても、夏バテ知らずで元気に過ごせるのは間違いない。そのお返しに、おばあの好物のスイカを買ってこようと決めた。
メニュー
・イワシと手羽元の炊いたん
・キャベツとピーマンのサラダ
・大根と揚げとコンニャクの煮物
・ごはん