ウナギの価格は、ここ数年でまさにうなぎ上り。和の調味料を煮詰めた濃厚な味で、総入れ歯でも食べやすい柔らかなウナギの蒲焼は、おばあの好みのどストライクだけど、食卓に上ることは年に一度あるかないか……。
価格高騰の理由は、絶滅危惧種に指定されるほどウナギが激減しているから。養殖も天然の稚魚をとってきて育てるしかないので、このまま自然のウナギの数が減り続けると価格はますます上がってしまう。それどころか、この世から残らず姿を消してしまい『値段が高いから年に一度も食べられなくて残念』なんて、悠長なことは言っていられなくなる。しばらくみんなでウナギのことは忘れて、数を回復させないと……。
そうはいっても、今日は土用の丑の日! 猛暑続きで夏バテ気味だし、すでにかなり長いあいだ食べていないし……あの甘辛く香ばしい、皮はパリッと身はふっくらでごはんに最高に合う、ウナギの蒲焼を少しでいいから味わいたい!
自分で買って、おばあの家に持っていこうかと思ったけど……僕も懐具合に余裕があるわけではないし、絶滅危惧種を無理して買うのも何だか気が引ける。
でも、スーパーに行ってみれば、案外お手頃サイズのものも売っているかもしれないし、おばあもウナギを食べれば、暑い夏を元気に過ごせるはず……。
そんなことを思いながらも、結局まっすぐおばあの家にたどり着くと――これは!?
食卓に並んでいるのは深い飴色に照り輝く、見るからに香ばしい焼き目のついた、ウナギの蒲焼! しかも『お手頃サイズ』ではなく、サンマが乗る平皿からはみ出さんばかりの大きさ!
おばあもウナギを食べたい気持ちは僕と同じだった! だからかなり値が張ったはずだけど、久々に奮発して『一人前サイズ』を用意してくれた!
とはいえおばあはそんなそぶりは全く見せず、僕が来るより先に食べ終え満足したからか――
イスに座ったままうつらうつらと居眠りしている。
さらに食卓にはウナギの他にも、豪華な皿が並んでいる。
いつものサラダの上には、小アジを焼いたものが3匹も! それに――
ミニトマトがゴロゴロとひしめいて、端にはリンゴまで乗っている!
おばあ得意の煮物は――
大根がちょっと角ばっているけど芯まで味が染みているし、細長く切った高野豆腐や豪快に半分にしたジャガイモもあって、ごはんに合うのは間違いない!
メニュー
・うな次郎
・サラダと魚のワンプレート
野菜:ミニトマト、キャベツ、レタス、ピーマン、ブロッコリー、茹でほうれん草
・煮物
大根、高野豆腐、じゃがいも、チクワ
・ごはん
まずはウナギから食べようと、箸を伸ばすと……何とも言えない違和感が。ウナギだけどウナギじゃないようなこの感覚、もしかして!?
よく見ると――
タレの袋に書いてある『うな次郎』の文字! ということは、これ、魚のすり身をウナギの蒲焼に似せて作ったそっくりさんやんか、おばあ!
思わず声を出すと――
「今日は、ウナギ食べる日やからな」
と向かいの席から、あくび混じりのおばあの声が。
これ、本物のウナギじゃないよ……と、わかっているのか聞いてみようと思ったけど、食べ物にうるさいおばあのことだから、それは百も承知のはず。それに以前、この『うな次郎』をおにぎりに貼り付けて、『うな丼風おにぎり』を作ってくれたこともある。
これはもう、ウナギだと思って味わったほうが幸せになれる!
タレをかけて山椒をふりかけ、それをごはんに乗っければ、もう――
本物のうな丼にしか見えない!
まずは一切れ頬張ると……まず感じる甘めのタレの味は、ウナギの蒲焼そのもの! 身の方は柔らかい食感で、練り物っぽい気もするけど、再現度はかなり高い!
それにたしか『うな次郎』は、もともと一口サイズに切られていなかったはず。この小さく切ってあるのは、食べやすいようにというおばあの心遣いに違いない。
他のおかずも手間暇がかかっていておいしいし、本物のウナギよりもおばあの作ったものが食べられることのほうがよっぽど贅沢だ。
お返しに僕が本物をプレゼントしようと、
「本物のウナギ食べたい?」
と聞いてみると
「そんなんいらんわ!」
と意外な返事。そして続けて
「甘いもんのほうがええな」
とつぶやくように言った。というわけで、ウナギがケーキになったけど、近々ちょっと豪華なやつを買ってくることに決めた。