肉食おばあは豆腐は食わない。かつお節まみれの冷奴


肉食おばあは豆腐は食わない。かつお節まみれの冷奴

メニュー
・冷奴
豆腐、かつお節
・豚汁

豚肉、あげ、白菜、しめじ、青ねぎ
・鶏の唐揚げ(2日め)
鶏のもも肉(骨つき・骨なし)
・安納芋の天ぷら(2日め)
・酢ごぼう(おせちの残り)
・野菜

トマト、ブロッコリー、キャベツ、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

皿の上に、かつお節がこんもり盛られている。いつもは台所にしまってある 醤油の小瓶も置いてある。かつお節をごはんにのせて醤油をたらし「ねこまんま」にして食べろということだろうか。「ねこまんま」はきらいじゃないけど、他におかずがたっぷりあるのに、わざわざあとからごはんに味をつける意図がわからない。

よく見たら、かつお節が見慣れたものとちがっている。僕が一人暮らしで「ねこまんま」を食べていたときは、お徳用の小分けのパックになったやつを使っていて、削られた一枚一枚のかつお節が、息がかかるだけで吹き飛んでしまうほど細かくてうすかった。皿の上のかつお節はどれも大きく、形がそろっていない。もしかしてこれは、大量生産されたお徳用とは対極の、とても貴重なものなのか。

おばあの家には、毎年暮れにお歳暮がとどく。そのなかに、枕崎かどこかの最高級のかつお節があったのかもしれない。おばあはそれを今日までとっていた。そうだとしても、豚汁も唐揚げもある今晩のメニューに加えるというのはちょっと豪華すぎやしないか。

僕はつばを飲み込み、箸をとった。息がかかってもかつお節はゆれるだけで吹き飛んだりはしない。山に箸を入れると、やわらかなものに刺さる感触がある。豆腐だ。うす茶色のかつお節の山のなかから純白の、冷たい絹ごし豆腐があらわれた。

冷奴なら居酒屋でたのむと、ねぎとしょうが、そしてかつお節、みょうがなどがちょこっとのっているものが出てくる。ところがこの目の前の一皿はなぜか、絹ごしの白い肌をおおってしまうほど、かつお節にまみれている。やはりかつお節は最高級の枕崎産で、その味をもっとも引き出す料理としておばあは冷奴を選んだ。そう考えれば、この豪快なひと品を、おばあが用意したことのつじつまがあう。きっとそうだ。この盛りつけは、豆腐よりもかつお節が主役のようではないか。

箸でつまんでいた豆腐とかつお節を口に入れる。唾液で縮んだ大量のかつお節の旨味が溶けだして、豆腐の味に勝っている。やはり豆腐は「従」でかつお節が「主」だ。でも風味が特別につよいというわけではなく、最高級品という感じはしない。むしろ、何かが足りない。

「醤油をわすれてるで」
とおばあがいって、小瓶を手渡してくる。

醤油をかけてみると、悪くない。やっぱりかつお節には醤油がよくあう。この二つをごはんにかけるだけで、おかずがないときでも腹を満たせる「ねこまんま」になるのだから当然か。ごはんが同じくシンプルな味の豆腐にかわってもまったく問題はない。ねぎやしょうがではなくても、これはこれで、なかなかいける。

「なんでこんなに、かつお節をかけるんや。ええやつなんか」
とおばあに聞いてみる。
「ダシをとるやつが、古くなってきてるんや。はよ食べなあかんねん!」
と返された。

荒削りなのはダシ用だからか! そういえば今日はおせちの残りも出されている。おばあは食べ物の整理をしていて、古い(たぶんもう賞味期限が切れている)かつお節を見つけ、捨てるのではなくさっさと食べてしまうことにしたのだ。だけど、おばあの席にはかつお節の山も豆腐もない。古くなった食品を僕だけに食べさせるつもりなのか。そう指摘すると、

「豆腐は、きらいや!」
と吐き捨てるようにいわれた。ひどい振られ方をしたみたいで、返す言葉が見つからない。それからなにを食べても、ダシ用の濃厚なかつお節の味が口のなかに残っていた。

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