この日は4月10日…なんと、おばあと僕がテレビに映る! 2年ほど前に出演した『サラメシ』も毎回録画する大好きな番組だけど、今回出る読売テレビ『かんさい情報ネットten.』も、平日の夕方に欠かさず見ている番組だ。
ところがおばあは、僕より長時間見ているはずなのに、取材のときに番組名を伝えてもピンときていなかった様子。毎日『蓬莱さんの天気予報』、見てるやんか、おばあ!
おばあは今日、テレビに映ること、ちゃんとわかっているのだろうか? 4月のカレンダーの10日のところには丸がついていたけど、日付の感覚がたまにズレている。つい先日も、日めくりカレンダーが夜になっても一日前のままだった。おばあは料理の腕は衰えていなくても、記憶力や理解力が怪しいときがあるのだ。
とはいえ、自分がいつも見ている番組に出られるなんて、滅多にあることじゃない。今日が放送日だと覚えているなら、料理はスペシャルなメニューのはず! 期待半分、心配半分で、放送予定の時間に合わせていつもより早くおばあの家に向かう。
居間の戸を開けると、テーブルには――
メニュー
・煮物
タケノコ、カニカマ、さつま揚げ、むすび糸こんにゃく
・味の素冷凍『ギョーザ』
・冷蔵シュウマイ
・スパゲティサラダ
・ほうれん草のおひたし
・サラダ
生:玉ねぎの醤油漬け、キャベツ、トマト
茹で:ブロッコリー、アスパラガス
・ごはん
こ、これは、テレビ出演記念のスペシャル・メニュー……なのか!?
得意の煮物は毎日のように出てくるけど――
冷凍ギョウザと冷蔵シュウマイが同じ皿に乗っている!? これはテレビ出演記念の……といいたいところだけど、今までにも何度も出てきたおばあの好きな組み合わせだ。
他にはスパサラや、
ほうれん草のおひたし、
サラダという、いつものおかずたちが並んでいる。品数も多くて、毎回のようにすごいと思うけど、メニューからはテレビを意識しているようには思えない。おばあの様子も――
手づかみで大きなタケノコを頬張ったり、
テレビを見たままごはんをかき込んだりと、普段通りの豪快な食べっぷり。それに対して僕は放送時間が近づくにつれ、そわそわして箸がすすまない。
やっぱりおばあは、忘れているのか!? 返事を聞くのが怖いけど、そろそろはじまるころだ!
「おばあ――」
僕がいいかけたところでガタッ! とおばあは音を立てて箸を茶碗をテーブルに置き、テレビに向き直った。
ついにはじまった! 『お弁当始めの日』の特集だ! このコーナーにおばあと僕が出る! オープニングにチラッと映ったけど、なかなか僕らは登場しない。いつの間にか口の中がカラカラに乾いている。おばあも緊張しているのか、仏像みたいに微動だにせずテレビ画面に集中している。
まずはお弁当作りの達人、そしてパパさんお弁当ブロガーとそのご家族が登場して、見事なお弁当を披露する。そしてついに、おばあが登場……したかと思ったら僕だ! 僕が自宅に取材クルーを招き入れ、おばあが作ってくれた弁当を広げて食べはじめる!
この日のおにぎりは、両側を大きな油揚げで挟んだいなり寿司風。
僕がおにぎりの感想を口にする間も――
おばあはじっと動かずただ画面に見入っている。
おばあめしのロゴが――
画面いっぱいに映っても、おばあはびくとも動かない。でも――
さすがに自分が映るとじっとしていられないらしく、微妙に体を揺らしはじめた。
いつも見ている番組に、いつもの態勢で映っている自分を見る気分はどうだ、おばあ! なんてことを思っていると――
うわあ! 僕も今いる同じ場所で映っている!
テレビの中で、僕とおばあが夕飯を食べ終える。そして僕が食器を洗い終え、おばあはおにぎりづくりにとりかかる。僕が翌日の昼に食べるおにぎりだ。
おばあは面倒だと文句をいいながらも、
「孫には作ってやらなアカンやろ」と、大きなおにぎりをこしらえていく。そうしてできあがったのが――
このタケノコごはんに海苔で顔をつけたおにぎりだ! 番組では放送されなかったけど、取材が長引くことを気にしたおばあは最初、顔をつけないつもりだったようだ。でも、旺盛なサービス精神も持ち合わせているおばあは、おにぎりの撮影直前になって――
こうして海苔を少しずつちぎって、顔をつけてくれたのだった。手早くつくったので納得がいかない様子で、何度も首をかしげていたけど、このおにぎり、いいやんか!
VTRが終わると、スタジオのアナウンサーさんたちも笑って、毎晩孫のために工夫を凝らしたおにぎりをつくるおばあを口々に褒めてくれた。
するとおばあはテレビから振り向いて、
「よかったな!」
と珍しく、ポジティブな感想を口にした……と思ったら、
「お前、まだごはん食べてへんのか! おにぎりつくられへんやろ!」
といつもの調子で声を荒げた。
僕はおばあをなだめながら箸を持ち、晩ごはんを食べはじめる。たまに食卓に並ぶ冷凍ギョウザと冷蔵シュウマイのセットが、やけにうれしく貴重なもののように感じた。