おばあが食べているのは――
僕がはじめて作ったハンバー――グ!! と“師匠”風に叫びたい!
なぜなら、
「お前が? ほんまに作ったんか?」
とおばあが素直に信じてくれないから。
だけどそれは、裏を返せば、“僕が作ったと思えないくらい出来がいい”ということやんか! つまり、味にうるさいおばあが、ようやく僕の手料理を認めてくれた!?
おばあが台所に立てなくなり、自炊なんてほとんどしたことなかった僕が代わりに料理をはじめて1年以上、ついに……このときがやってきた!
これまでおばあに酷評された数々の料理が、視界の隅にぼんやりと浮かんでは消えていく。それぞれの料理にまつわる落胆や悔しさが、天に昇って浄化されていくみたいだ。
だけど……ここで油断してはいけない。いつもなら僕が喜んだ瞬間、天国から地獄へ叩き落とす無慈悲な言葉が直撃する。だけど僕が身構えた瞬間、
「おいしいわ」
とうれしい感想が飛び出した。
『フランダースの犬』のラストに現れたのとそっくりな天使たちが舞い踊っている。
やった! ほんとに喜んでいいんやね! パトラ……じゃなくて、おばあ、僕もう疲れて……なんかない! それどころか、腹の底から力がみなぎってくるのを感じる! これからもっとおいしい料理作ったるで、おばあ! そんで、おばあを連れて昇天しようとする天使を、おいしい香りと一緒に換気扇に吸い込んで追い返したる!
僕がおばあに料理を作る理由は、健康的な料理をしっかり食べて、元気に長生きしてもらいたいからだ。
今回作ったのも、ふつうのハンバーグじゃない。ひき肉に豆腐を混ぜた、動物性脂肪控えめの豆腐ハンバーグだ。
それにおばあは濃いめの味が好みだから、「味が薄い!」と言って残してしまわないよう、味付けしてしっかり煮込んだ。だから正確には、煮込み豆腐ハンバーーーグ!
使った食材(4つぶん)は――
●合いびき肉と豆腐(どちらも約240g)
●玉ねぎ(半個をみじん切りしてレンチン)
●塩、コショウ、薄力粉(適量)
これを――
ボールに入れ、
手(ビニール手袋装着)でよく混ぜてタネを作り――
丸く成型して、オリーブオイルを引いたフライパンに置き――
両面を焼いて、味付けは――
●ハインツのケチャップ
●酢豚のタレ(ウスターソースの代用)
●水
これを味見しながら量を加減して、シメジも一緒に――
フライパンに注いで、ハンバーグを煮込む。
実はウスターソースを買い忘れてしまった。はじめは焦ったけど、こんなときおばあはその場に“あるもん”で何とかしてしまう。
だから僕も“あるもん精神”で、冷蔵庫にあった酢豚のタレを使ってみると、意外とケチャップと相性ぴったり! 甘辛い味がおばあの舌にも合ったみたいでほっとした。
さらに煮込んだおかげで、生焼けにも黒焦げにもならず、うまく火が通った。インスタグラムのコメントでハンバーグのレシピやコツを教えてくれたみなさんに感謝だ。
常に本音が顔に出るおばあも――
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(画像の右をタップすると採点の動画が載っています。9枚目には理由を語る動画も)
満面の笑顔を見せてくれた。今回こそ、ミシュランガイド顔負けの辛口評価、“おばあシュラン”の100点満点が獲得できるに違いない!!
そう期待して点数を聞くと
「80点」
……って、なんでやねん! ずっと笑顔で舞っていた天使たちが、一斉に真顔になって自ら換気扇に向かって退散していく。どうしてなんや! 僕がはじめて作ったと思えないくらい、おいしいんやろ、おばあ!
そういえば、前にもこんなことが……。そのときおばあは「満点を出したら、それ以上のおいしさを追求しなくなる」という意味のことを言っていた。
どうやら今回も同じことらしい。たしかに、ハンバーグはもう少し焼き目を付けたほうが香ばしくなるし、味付けも悪くないけどまだ改良の余地がある。
そもそも、はじめて作ったハンバーグに、料理上手のおばあが80点もくれたのは、“辛口”どころか甘すぎるくらいだ。
そして何より、点数以上にうれしいのは――
このおばあの食べっぷり!
ハンバーグはもちろん、横に添えた野菜や――
青のりの佃煮を乗せたおにぎりも――
大口を開けて力強く、ぱくぱくと平らげる。
デザートに用意した――
タンカンも、
指でつまんで、
ぱくりと食べて、
用意したメニューを全部きれいに食べきった。
おばあが夢中で食べる姿と空になった皿を目の当たりにすると、またやる気が湧いてきた!
次はもっとおいしいもの作ったるで、おばあ! と叫びだしたくなったとき
「お前もはよ食べや。腹減ってるやろ」
とおばあの声が飛んできた。それを聞いた途端、自分が空腹だったことに気づき、台所に急いだ。