前回おばあに出したのは、ベトナム土産にもらった謎の袋麺。ラーメンでもうどんでも、おばあはとにかく麺類が好きだから、はじめてのエスニックな味に大喜び……なんて思った通りにはいかず、
一口食べると鬼瓦みたいなしかめっ面に。シワの寄った額に、“まずい”の三文字が浮かび上がっていないかと思わず目を凝らしてしまった。その冴えない表情が、そこそこの量を残して食事を終えるまで、笑顔に変わることはなかった。
おばあは以前、食べることと同じく、料理を作ることも楽しんでいると言っていた。ところが現在は台所に立つことが難しくなり、長年の楽しみの一つを失ってしまった。だからこそ食べることは、もはやおばあの生きがいと言ってもいい。
それに最近、おばあは知り合いの訃報が続き、沈んだ顔になることが増えた。中学の同級生だった大江健三郎さんのことも残念がっていた。
生きる気力をみなぎらせ、元気に長生きしてもらうには、今回は確実に、心の底から笑顔になるものを食べさせたい!
というわけで用意したのは、ハンバーグとコーンポタージュ。
食べ慣れた煮物や味噌汁もいいけど、実はおばあは洋食が大好物だ。魚より肉、特に入れ歯でも食べやすい柔らかいハンバーグは、僕と同じ量でもペロりと平らげる。それに味噌汁以上に、コーンポタージュには目がない。
おばあが生まれ育った愛媛の山奥では、畑で採れたトウモロコシは貴重な“甘味”だったし、滅多に手に入らない肉は大変なごちそうだった。だから今でも口にすれば、当時の気持ちがよみがえってくるようで、パッと明かりがついたように幸せそうな顔になる。
だから今こそ、ハンバーグ作ったるで! と気合を入れたのはいいけど、ハンバーグってひき肉とパン粉と……で、どうやって作るんだったっけ? 初めて作るから、きっと微妙な味に。
前回に続いて、また“まずい”の顔をさせるわけにはいかない。だから以前、おばあが「おいしい!」と言った――
広島の〈もりせん〉のハンバーグを取り寄せた。コーンポタージュもパック入りだけど、おばあも買っていたスジャータの“間違いない”味だ。
ハンバーグは湯せんして温め――
一口サイズに切って、春キャベツやニンジンも添えた。
そして味付けは――
ハインツのトマトケチャップ。
おばあは酢豚みたいな甘酸っぱい濃い味が好きなので、これでもか! と――
ケチャップをたっぷりかけた。ついでに春キャベツにも。
おばあに出すと――
まずはハンバーグから、
勢いよく食べはじめ、
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口の周りにケチャップを付けながら食べすすみ、
「うまいわ!」
とうれしい反応! しかも笑顔!
今回こそ満点が期待できる! と思って点数をたずねると、
「85点」
って、まあまあ高得点……だけど、その微妙すぎる5点刻みは、何なんや、おばあ!
満点じゃない理由を聞くと
「ちょっとからい」
…って、しまった! ケチャップをかけすぎたんだ。菜箸でケチャップを取り除いても、時すでに遅し。味に厳しいおばあは、一度つけた点数を変えることはなかった。
だけどまだ――
コーンポタージュがある! おばあはカップを掴むとぐびぐびと、風呂上がりのコーヒー牛乳みたいな勢いでのどを鳴らし――
3口ほどで飲み干してしまった。
そしてついに久々の、
「100点!」
が飛び出した!
笑顔も見られたし、僕もうれしくなる。おばあみたいに、料理を人に作ることの楽しさがわかってきた気がする。今回のハンバーグはパック入りだったけど、手作りしたものを「うまい!」と言ってくれたら、もっとうれしくなるのかもしれない。
どうせ今回85点だったから、完璧なものができなくても手作りにチャレンジしてみよう……って、まさか! 僕にイチから作らせるために、満点じゃなかったんか、おばあ!