おばあは近ごろ、仏像みたいに半開きの目をして、ぼうっと遠くを見ていることが多い。米寿を迎えて二ヶ月以上たち、ついに悟りを開いた! なんてことはなく、やがてうつらうつらと居眠りしはじめる。
悟ったようなおばあの眼は、昼間もとにかく眠たくて、まぶたがぱっちりと開かないだけらしい。
夜は8時台には眠りについているし、睡眠時間はじゅうぶんそうだけど、しっかりと熟睡できていないのか!? いや……おばあの寝室のふすま一枚隔てた居間で、僕がどれだけ物音を立てようと、歌番組の懐メロに合わせて歌を歌おうと、おばあは起きてこない。
僕の歌声が邪魔で眠れないなら、確実に大声で怒鳴られている。
それに、熱中症にならないようエアコンをつけっぱなしにしているから、熱帯夜でも部屋の温度は快適……って、そうか!
一日じゅう冷房の効いた部屋にいるから、自律神経がくるって、体がだるくなっているのかもしれない。かといって、この気温では、昼間にエアコンを切ると高齢のおばあの命にかかわる。
そんな状況で、おばあの眠気とだるさを吹き飛ばすには……好物の甘いものを味わうのがいちばん! これまでもおばあは、機嫌が悪いときや元気がないときでも、ケーキをひとくち食べれば笑顔になってくれた。
というわけで、前回のインスタライブのとき、ティラミスを買って行った。おばあの好きな甘くてクリーミーな味わいで、柔らかく食べやすいので、きっと気に入ってくれるに違いない。
そう思って差し出すと――
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僕が話す後ろで、パクパクと夢中で食べてくれた。だけどずっと眠そうな目をしていて静かだった。そして食べ終わると、さっさとベッドに行って寝てしまった。
僕がおばあに作っている「まごめし」を食べても、完食はしてくれるけど、最近なかなか明るい表情になってくれない。
おばあの好きな料理を揃えているのに、今回もきっと眠そうなまま……と半分あきらめて、おかずとごはんを用意した。
するとひとくち食べて、険しい顔……じゃない!?
めっちゃ目がぱっちり開いて、表情明るくなってるやんか、おばあ!
気持ちいいほど食べっぷりもよくて、見ている僕までうれしくなる。
おかずは――
酢豚のタレをかけた豚肉と厚揚げ、
レンチンした温野菜。それにごはんは、以前おばあが僕に作ってくれた――
とろろ昆布を巻いたおにぎりにした。
とろろ昆布巻きおにぎりに込めた、おばあよ元気になれ! という僕の思いが通じたのか!?
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(※上の画像の右の方をタップすると、動画が見れます)
さらには、
「おいしいわ」
とうれしい感想も飛び出した。
近ごろ味の点数を聞いても満点をくれず、評価も辛口だけど、今回は期待できそう!
そう思って点数を聞いてみると、
「80点」
って……満点じゃないんかい!
とはいえ、久々に見せてくれたその笑顔、僕にとっては満点より価値あるで、おばあ!
もっとおばあの好きなものを出してあげよう。そういえばこの前、トウモロコシが好きだと言っていた。トウモロコシを使って……ポタージュスープくらいしか思いつかないけど、作ってみることに決めた。
📕【お知らせ】📗
9月発売予定の書籍『おばあめし』には、
おばあがトウモロコシ好きになった原点のエピソードも載っていますよ。