近ごろおばあは晩ごはんに、僕の想像のはるか斜め上を行く独創的な料理を出してくれる。
例えばこの前の『丸ごとのイワシと鶏の手羽元をフライパンで炊いたもの』は、イタリア料理のアクアパッツァをさらに豪快にしたような迫力があった。
そうかと思えば『牛肉と“タコさんウインナー”の鍋』は、肉の食べごたえと“タコさん”のかわいさが共存した……って、自分でも何を言っているのかわからないけど、とにかく何物にも例えようのないオリジナリティが満ちていた。
ほかにもあるけど、どれも共通しているのは“味は絶品”ということ!
見た目にインパクトがあって、食べるとおいしい……そんな料理を出されたら、食欲がどんどん加速して、夏バテで食欲不振になっている暇なんてない!
今夜も見たこともない“おばあオリジナル料理”を、こしらえてくれているはず! そう期待しておばあの家にやってくると――これは!?
テーブルに乗っているのは――
トマトが乗ったいつものサラダに、
魚がきれいに整列している『小イワシの炊いたん』。そして――
出来合いのギョウザって……全部めっちゃお馴染みのやつやんか、おばあ!
とはいえ、『魚の炊いたん』はおばあの得意料理だし、ギョウザはたぶん味の素の冷凍のやつだから、おいしいのは間違いない!
そこに山盛りのサラダとくれば、栄養バランスもばっちりだ! 僕の健康は、おばあの料理に支えられている! お陰で近ごろ体調は絶好調! 筋トレとランニングはすっかり日課になって、記録も順調に伸びている。あとはワクチン接種さえできれば……って、そんなことより――
今日のギョウザ、パリパリの“ハネ”どころか焼き目もコゲも全くない。水餃子みたいに表面はツルツルしている。
「このギョウザ、焼いてないの?」
向かいの席のおばあに聞くと
「そうや! チンしたからな」
となぜか自信満々に胸を張る。
味の素の冷凍ギョウザは、ただでさえ水や油がなくても焼くだけで簡単においしく仕上がるのに、それをレンジでチンしてしまうなんて、“時短料理”の二段重ねやんか、おばあ!
冷凍ギョウザを焼いて面倒なのは、フライパンが汚れることくらいだけど、そんなのいつものように僕がいくらでも洗うのに……。
ひとまずタレにつけて食べてみると――熱い肉汁がジュワっと、“焼き”のときよりたっぷりあふれ出てきた。熱いスープが皮の中に詰まっている小籠包みたいだ。
中身の餡と肉汁にはうま味が凝縮していて、続けてごはんをかき込まずにはいられない。それに皮は香ばしくないけど、ツヤツヤの舌触りでもっちりとして、これはこれでけっこうイケる!
“焼き”が前提の『冷凍ギョウザ』をレンジでチンした、時短の二段重ね……それでいておいしいのだから、これも立派なアイデア料理だ。
一方で『小イワシの炊いたん』や、キャベツとトマトのサラダは、手づくりしてくれている。冷凍ギョウザをチンしたいくらい料理が面倒なときには、全部出来合いのものでいいのに……。
そうだ! 今度、僕が何か買ってくるか作るかして、おばあに休んでもらおう!
そうおばあに告げると
「お前の料理……そんなんいらんわ!」
とはっきり言われてしまった。というわけで、近々おばあの好きなものを買ってくることに決めた。