今年もやってきた3月7日! この日は記念すべき、年に一度の3と7でサウナの日……もいいけど、僕の誕生日!
30代で独り身の僕にとって、朝から夕方まで、普段と何ら代り映えのない日曜日だった。緊急事態宣言が解除されたからといって堂々と街に繰り出すわけでもなく、遅れていた仕事の穴埋めをする気分転換に、近所の公園を早歩きで散歩しただけだ。でも、晩ごはんのときだけは、誕生日らしいハッピーでスペシャルなことが待っているはず!
毎晩ごはんを作ってくれる僕のおばあは、これまで毎年、すき焼き&ケーキとか、驚くほど甘い上等なホタテの刺身とか、スペシャルメニューで誕生日を祝ってくれた。
とはいえ心配なのは……おばあは80代後半にさしかかり、さすがに物忘れが増えてきたこと。ゴミの収集日を間違えるくらいは日常茶飯事だし、2月の節分には豆をまく習慣があることを忘れていた。この前のひな祭りにいたっては、毎年祝っているはずなのに桃の節句とはまったく関係ない、分厚い鶏むね肉を固めのウェルダンで仕上げた『男めし』が出てきた。
今年は僕の誕生日をちゃんと覚えているのか……覚えていたとしても、今日の日付を間違っていないか……いや、おばあが3日7日が何の日か、忘れるはずなんてない! 亡くなったおじいの誕生日も一緒だから、強く記憶に刻まれているはず!
期待を込めて居間の戸を開けると、おばあはイスに座ってぼうっとテレビを見ていて、普段と変わらない様子。だけど僕に気がつくと、いつもと同じ時間なのに
「やっと来たか」
と珍しく待ちわびたように迎えてくれて
「熱いうちにさっさと食べや!」
とやけに急かしてくる。
言われた通りテーブルに着くと、そこには――
フタをしたままのフライパンが! おばあがそのフタを持ち上げると――
現れたのは――
びっしりとすき間なく並んだ、僕の大好物、餃子! しかも見るからにふっくらモチモチで、ひとつひとつがかなりの大きさ! おばあの家で餃子といえば、味の素の『冷凍ギョーザ』が定番だけど、この餃子、大きさはその2倍、いや、3倍はある
おばあはいつも、僕が来るより先に食べているはずだけど、どれほどの量を食べたんだ!? それに僕にも到底食べきれないほどの、焼きたて餃子を一気に見せつけるこの演出……おばあなりのサプライズ!?
目の前に出現した、好物が敷き詰められた光景に圧倒されていると、
「これで食べえや」
とおばあが差し出したのは――
味ぽん! いつもの冷凍ギョーザは何もつけずに食べるけど、つけダレに味ぽんとは……間違いなくおいしい組み合わせ!
早速、ずしりと重い餃子を味ぽんにつけて頬張ると、皮はもっちりとして、中身は肉とキャベツの味がしっかりと感じられるジューシーな餡、そこにポン酢の酸味が加わって……やっぱりこれ、最高やで、おばあ!
餃子を手作りできなくても、こんなおいしい餃子を見つけてくるおばあの嗅覚、僕以上に冴えている! 食に対する感度が鈍っていないうちは、まだまだ元気な証だ。そう思うと、何だかうれしくなってくる。
それにメニューは、絶品の餃子だけじゃない!
焼いた鮭のカマに、
いつもの生ブロッコリー入りのサラダに加えて――
真っ赤なトマトまで! そして――
たっぷりのめかぶと大根の味噌汁も! さらに極めつきは――
生たまごが3つぶん!? どういうわけか尋ねると、
「割れてしもうたから、いるなら食べや」
とのこと。
これはもう……ごはんにかけて、味ぽんを垂らして――
たまごかけごはんにするしかない! さすがに3つは多いので、1個半を使った久しぶりのたまごかけごはん……ひと口すすると、もう、たまらない! そこへすかさず餃子を頬張ると、箸が止まらない無限ループに陥った。
3月7日に、はじめて食卓に並んだ生たまご3つ……割れたというより、わざわざ用意してくれたように思えてならない。それに過剰なほどの量の餃子に、豪華な副菜の数々……やっぱり僕の誕生日、覚えててくれたんか、おばあ!
そうおばあに言うと、
「当たり前や!」
と、いつもの大声が飛んできた。