今晩も僕はお腹を空かせて、おばあの家にやってきた。ところがおばあは、居間に駆け込んできた僕には目もくれず――
大きな袋に手を突っこんでいる。にぎやかなイラストが描かれた袋の正体は――
『おつまみ盛り盛り』!! おばあも僕も酒をほとんど飲めないのに、おつまみの詰め合わせを買ってくるなんて……どうしていつものおかきとか飴とか、”普通”のお菓子じゃないんだ!?
おばあは小袋をひとつ取り出し、中身を手の平にあける。その中身は――
ピーナッツだ! これを一粒ずつ味わって食べるのかと思いきや――
一気に口に放り込む。毎食後に薬を飲んでいるときと同じ動きだ! でも今回は、丈夫な総入れ歯でボリボリと音を立てて噛み砕いている。
おばあはおかきやせんべい、かりんとう、一粒チョコレート、塩飴などなど……常に袋菓子を手元に置いていて、一日で一袋くらいペロリと平らげてしまう。しかも歳をとって量が減るどころか、最近になってますます食べるようになった。おばあの足元のゴミ箱には、飴やせんべいの透明な包みが、いつ見ても分厚く積み重なっている。
食欲があるのは健康の証だと思うけど……さすがにお菓子を際限なく食べていれば、塩分と糖分の摂りすぎで持病の高血圧が悪化してしまう! そう思って量を減らすように言っても、まったく聞く耳を持たない。
減らせないなら、せめて健康的なものを食べてほしい! そこで先日、僕は無塩のミックスナッツを買ってきた。だけどプライドの高いおばあは、僕が買い与えたものを食べるのも、塩気のないナッツの味も気に入らなかったようで、結局ほんとんど口にしなかった。
だったらナッツより食べ慣れたピーナッツはどうかと、殻付きのものを自分で買ってくるようにすすめておいた。そして今日、おばあが買ってきた『おつまみ盛り盛り』には、たしかにピーナッツが入っているけど……殻付きじゃなくて塩バター味だし、柿の種とか塩辛いお菓子も入っているし、さっきから食べる手を止めないし……また血圧上がるやろ、おばあ!
「ピーナッツ、味がついてないやつって言ったやん!」
と僕が思わず非難しても――
おばあはすまし顔でお茶をすすり、
「ああぁ!」
と満足そうに息を吐く。
今日のところはあきらめて、僕も晩ごはんを食べようと席に着くと、テーブルには――すごいご馳走やんか、おばあ!
久しぶりの鯛の刺身があるかと思えば、
サンマの干物まで! この白身魚と青魚の贅沢なコンビネーション、魚好きにはたまらない!
そしていつもの――
味が染みた煮物に、
生ブロッコリー入りのサラダ、
ひき割り納豆という安定のおかず。さらに――
ワカメと豆腐の味噌汁には、僕の好きなロールキャベツが……って、ロールキャベツ!? 商店街の惣菜屋で買ってきたものだと思うけど、丁寧に焦げ目までついているということは、わざわざおばあがフライパンで焼いたのか!? そもそも味噌汁にロールキャベツって、なんちゅう発想なんや、おばあ!
恐る恐るかじってみると……キャベツの甘みが、染み出してきたダシの効いた味噌汁と合わさり、香ばしい焦げ目がアクセントになって、かなり……いける!
「これ、おいしいやん!」
素直に感想を伝えると、
「そら、そうやろ!」
とおばあは誇らしげに胸を張る。
相変わらず、味の濃そうなピーナッツを口に入れているけど、おいしい手料理を味わってしまった僕には、もう注意することなんてできない。健康的な殻付きピーナッツは僕が買ってきて、黙っておばあの席に置いておくことにした。
メニュー
・鯛の刺身
・サンマの干物
・煮物
じゃがいも、こんにゃく、ごぼ天、タケノコ
・野菜
生:ブロッコリー、ピーマン 茹で:ほうれん草、にんじん
・ひき割り納豆
・味噌汁
具:ロールキャベツ、ワカメ、豆腐
・ごはん