商店街の魚屋から、おばあが仕入れたヤバいブツ 生まぐろのトロ


商店街の魚屋から、おばあが仕入れたヤバいブツ 生まぐろのトロ

メニュー
・まぐろの刺し身(中トロ)
・とろろ
山芋、卵黄
・みそ汁
豆腐、わかめ、たまご、青ネギ
・なんきんの炊いたん
かぼちゃ、しいたけ、こんにゃく
・野菜
(生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草)
・ごはん

細かなサシが縦横無尽に走る桜色の断面。写真でしか見たことがない最高級の神戸牛、そのなかでも最も希少とされるシャトーブリアンみたいだ。透明感とみずみずしさはそれにも勝り、ピンクサファイアのようにきらめいている。

下には大根を刻んだツマが敷かれている。スーパーの刺し身のパックに入っているものにくらべて、ひとつひとつがかなり太い。おばあが包丁で刻んだらしい。これがなければ、まぐろの刺し身だということには思い至らなかった。

これは、ただのまぐろの刺し身じゃない。びっしりと入った脂のスジ、つまりサシがあることから考えると、たぶんトロというやつだ。しかもひいてあるツマが真っ白だ。魚は冷凍ものをヘタに解凍したり、古くなったりすると汁が出てツマを汚す。この穢れのないピュアな光を放つまぐろのトロは、冷蔵もので、しかもおそろしく新鮮だ。おばあが絶大な信頼を置く商店街の魚屋が、奥に隠して上客にしか出さないほどの特別なものに違いない。

さらにとなりの皿には、純白のとろろ。中央には卵黄ものっている。おばあはとろろも卵黄も「ぬるっとするから嫌い」だといっていた。テーブルを挟んだおばあの前には、とろろはない。自分は食べないのに、まぐろの刺し身ととろろの相性がぴったりだということは長年の人生経験のなかで知ったのだろう。

新鮮なまぐろのトロととろろで、極上の「まぐろの山かけ」ができる。それをおばあは僕に食べさせようとしている。

なにかやっかいな頼みごとでもするつもりだろうか。今年に入ってから、おばあの寝室のベッドの位置を移動させて模様替えを手伝ったし、物干し竿の高さを下げて洗濯物を干しやすくしたし、玄関と勝手口に靴ぬぎ台を設置して家の出入りをしやすくした。次は冷蔵庫を移動しろとでもいわれるのか。ベッドを動かしたときに痛めた腰がやっと治りかけているというのに。

僕はあふれ出る生つばを飲み込んだ。箸を握りしめた手が素直に動かない。うまいものを食べる代わりに、腰を犠牲にする覚悟はあるか。僕は自分に問いかけた。

「早く食べえや」
おばあが急かす。口を大きく開けて舌を出し、その舌ほどもある美しいピンクのトロをのせ、僕に見せつけるようにゆっくりと口を閉じる。

僕はたまらず聞いた。
「なんで、こんなすごいものを用意したんや」
おばあは口の中のものを飲み込みながらいう。
「そりゃおまえ……最近いろいろ……やってくれたからや!」
最後はなぜか怒鳴っていた。

そうか。おばあは今まで、感謝の言葉なんて口にしたことはなかったし、これからもないだろうけど、ありがたいと思ってくれていたのだ。まあ、感謝の言葉より、生まぐろのトロを食べられることのほうがうれしい。腰を痛めた甲斐があったというものだ。

おばあの言葉を聞き終わるよりも早く、僕の箸を持つ手は動いていた。そしてさっきから魅惑的な断面を憎たらしく見せつけてくれていた手前の一切れを醤油もつけずに口に放り込み、思い切り噛み締めてやった。

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