おばあが孫で試す、新たなおいしさの組み合わせ!?納豆入りのきつねうどん

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メニュー
・きつねうどん

油揚げ、うどん(乾麺)
・納豆
納豆、卵黄
・大根おろし
大根、じゃこ
・茹でオクラ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

居間の戸を開けると、食卓でおばあがうどんをすすっていた。
「台所で、うどん入れてこい」
と僕に目も向けず、強い調子でいう。おばあが不機嫌なのは僕が夕飯の時間に遅れたからだ。連絡もせずに遅れた僕が悪いのはわかっている。だけど今日のように黙って15分くらい遅くなることはたまにある。今晩はそれに加えてメニューがうどんだったことが、おばあを余計にイラつかせているのだろう。

おばあと僕は麺の固さの好みが全く違う。僕は固め派、おばあは柔らか派だ。だからうどんが夕飯に出るときは、僕が自分で茹でていた。だけど最近になっておばあは、人それぞれに麺の固さの好みがあることを理解するようなり、僕のぶんだけ固めで茹でてくれるようになった。いつもの夕飯の時間に合わせて、僕のためにわざわざ固めのうどんを茹でたのに、遅れてくると伸びてやわらかくなってしまう。僕の無断遅刻で、ベストなタイミングで料理を提供できなくなる。それは長年、誰かのために料理をつくってきたおばあのプライドが許さないのだろう。

うどんを茹でて器に入れたもの

台所の流し台に置かれた大きな丼ぶりの中に、茹でたうどんが入れられていた。形は細めの乾麺タイプ。それがぐねぐねと絡み合い、器の底から縁までの7割くらいの高さまで積み上がっている。ごはん茶碗に換算すると2杯ぶんは軽く越える量だ。時間が経っているものの、伸びているようには見えない。
乾麺タイプは茹でたときに大きく膨らむので、量を見積もることが難しい。だからおばあは多すぎるうどんを茹でてしまったのだ。

近ごろ太ってきた僕の体型を気にしているおばあは、ごはんのおかわり禁止令を出した。だけど今日は、せっかく茹でたうどんを一度に食べきることの方が重要らしい。久しぶりに炭水化物がたらふく食べられるので、僕としては全く問題ない。

丼ぶりのそばの小皿には、甘そうな味付けの油揚げが4枚ものっている。これも太りそうだけど最近、摂取カロリーは抑え気味なので今晩くらい構わないはず。僕は油揚げを密集したうどんにのせ、小皿に残った甘い味の汁も残らず投入した。そして鍋で温めてある透き通ったダシをお玉ですくってかけると、絡み合ううどんのすき間に吸い込まれていった。やがてうどんがダシに浸かると、油揚げで表面がほとんど覆われた見事なきつねうどんができあがった。

アゲをのせた、きつねうどんとおかず

テーブルの僕の席にはすでに、茹でオクラや大根おろし、サラダ、そして納豆が用意されていた……納豆だって? 納豆といえばごはんと一緒に食べてこそ、その濃厚で香り深いおいしさの真価が発揮されるのではないのか。丼ぶりにはたっぷりのうどん。ごはんは炊飯器の中だ。食欲はあるので食べられるけど、さすがにカロリーが気になる。おばあも許さないはずだ。

では納豆を単品で食べろということか。いや、おばあは納豆の臭いが苦手で決して口にしないけど、僕がごはんにかけて食べているところをテーブルを挟んだ正面の席で何度も目の当たりにしている。それにおばあはカレーをはじめ、同じ料理でも毎回、ときに繊細にときに大胆に変化を加えている。もしかして、おばあがうどんと納豆を出したのは「納豆好きなら、うどんにのせて食ってみろ!」という僕へのメッセージなのかもしれない。おばあは納豆のおいしさを理解できていないはずだけど、うどんとの組み合わせは悪くなさそうだ。

僕は器を手にして卵黄入りの納豆をかき混ぜはじめた。あらためてテーブルを眺めると、納豆以外の茹でオクラや大根おろしも、うどんに合いそうなことに気がついた。大根おろしは暑い時期に冷やしうどんにのせて食べたことがある。鍋のときに、ポン酢の入った取り皿に投入することもあるし、温かいきつねうどんにも合いそうだ。おばあは大根おろしやオクラも、うどんに一緒にのせるために用意したのに違いない。

きつねうどんに、納豆、オクラ、大根おろしをトッピング

きつねうどんに3種のトッピングを終え、まずは納豆と一緒にうどんをすすった。思った通り……いや、以上だ。納豆とダシが互いのうま味を引き立て、ごはんがわりのうどんが納豆のクセのある味わいを包み込んでひとつになっている。大根おろしの甘味と辛さも、きつねうどんに合っている。オクラのぱりぱりとした歯ごたえのアクセントも心地いい。

汁をすすって器を置くと、テーブルの向かいの席のおばあと目が合った。大きく目を見開き
「それ、うまいんか?」
と興味ありげな様子でいった。すっかり機嫌はなおっている。

おばあのうどんの器には、納豆はもちろん、オクラや大根おろしも入っていなかった。おばあは僕にいろいろな料理を与えて実験動物を見るように観察しているのだ。

僕がうどんにいろいろトッピングして、まずかった場合はどんな顔をするつもりだったのだろう。そう思っても、腹は立たなかった。こんなにおいしい納豆入りのきつねうどんを食べられないことを思うと、おばあのことがかわいそうになってくるからだ。
「おいしいに決まってるやろ!」
と僕はいった。