メニュー
・知らん魚の焼いたん
・シュウマイ(冷凍)
・たまご焼き
・なます
サバ、大根、にんじん
・煮もの
鶏肉、しいたけ、れんこん、ごぼう
・味噌汁
白菜、わかめ
・白菜キムチ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
「魚の名前、聞くの忘れたわ!」
僕が席に着くと、おばあがいった。
おばあは山育ちだからか、魚の名前をあまり知らない。かなりメジャーなアジやサバ、マグロなんかは見分けがつくけど、サワラやスズキくらいになるともう怪しい。いつも勝気なおばあも、魚の名前は口ごもる。それが面白くて、僕は魚が出るとわざと聞くようになった。おばあはひいきにしている魚屋で、すすめられたものを買っていた。僕が質問するようになってからおばあは、購入する魚の名前をちゃんと確認するようになったのだった。
それを今日は聞き忘れたらしい。だからといってそのことを、食事の冒頭で力強く宣言する必要があるのだろうか。それよりも、僕はテーブルに目をやった瞬間から、もっと疑問に思っていることがある。
なんでこんなに、品数が多いんだ。目の前にひしめいているおかずが8品。しかもその組み合わせを見ると、ますます謎が深まる。なぜ、焼き魚と一緒の皿に、焼き色のついたシュウマイがのっているんだ。おそらく冷凍のシュウマイを、魚と一緒のフライパンで焼いたのだろう。それなりに合理的な理由があるような気もするけど、やっぱりこのコンビネーションはわけがわからない。
煮物とか味噌汁とかキムチまであって、ごはんに合うおかずがいくつも並んでいる。おかわりしなければごはんが足りなくなることは目に見えている。しかもおばあは、太り気味の僕に「ごはんおかわり禁止令」を発令し、僕の茶碗を厳しく監視しているのだ。
シュウマイをひとつ口に入れると、カリッとした皮の中身の味付けは濃いめで、ごはんが欲しくなる。限られたごはんを、おかずの一口目からかき込んでいると、すぐに茶碗は空になってしまう。僕は茶碗に手を伸ばしたくなるのをぐっとこらえた。
さらにひときわ妙なのが、たまご焼きがあることだ。おばあは普通、おかずが少なめのときにたまご焼きを焼く。冷蔵庫にストックしてあるたまごで手軽につくることができ、食卓に鮮やかな黄色でいろどりを添え、食べごたえもある。使うたまごは決まって3つ。塩のみで固めに焼き上げた硬派なたまご焼きである。
箸で切らずに、そのまま端からかぶりつく。そうやって力強く、タンパク質の多いたまご焼をほおばっていると、全身の筋肉に栄養がいきわたっていく気がする。
そうだ、筋肉だ! 魚やシュウマイの中身のミンチは、タンパク質がたっぷりで、筋肉の素になる。煮物の鶏肉や、なますのサバもそうだ。
長寿で健康な人は肉や魚をよく食べ、運動を欠かさず、筋肉がしっかりついている。そういう内容の番組をこの前テレビでやっていた。僕とおばあは夕飯を食べながら見ていたのだった。そのときおばあは「長生きしても、しゃあないわ」なんていっていたけど、本心はやはり違ったのだ。
「おばあも、元気で長生きしたかったんやな」
僕がいうと、
「お前のほうこそ、運動はどうしたんや?」
と返された。運動というのは、僕が肥満対策にはじめた筋トレのことだ。最近サボっていたので、運動不足でまた太ってきてしまった。
「ばあちゃんはな、今日も体操、行ってきたで!」
おばあは誇らしげに胸を張った。体操というのは、女性だけが入会できるフィットネスクラブのことだ。高齢者の会員も多いらしいので、僕は「おばあフィットネス」と呼んでいる。
さすがに50も年の離れたおばあに、筋肉で負けていられない。食事を終え、おばあが台所で洗い物をしている隙に、僕はじゅうたんの上でがに股になり、スクワットをはじめた。