牛すじ肉入りの煮物?ちがう!料理の名前はおばあが決める!

スポンサーリンク

メニュー
・煮物?
牛すじ肉、大根、ごぼ天、ちくわ、糸こんにゃく、たけのこ
・知らん魚の炊いたん(魚屋が調理したもの)
・なます
大根、にんじん、さば
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

今日の煮物は具だくさん。ちくわに大根、こんにゃく、たけのこ、脂抜きの下処理に手間がかかる牛すじ肉まで皿に一緒に盛られている。

よく煮えたたけのこは適度な歯ごたえがあり、弾力のある糸こんにゃくがぷちぷちと千切れる。味が染みた大根はムラのないうす茶色でやわらかく、口に入れると噛む前から汁があふれ出してくる。味付けはダシを効かせ、うす口醤油にみりんや醤油で少し甘めに仕上げる。

おばあがよくつくる典型的な煮物の味だ。いつもなら具材は3種類くらいなのに、今日は種類が豊富で食べ飽きない。このひと皿を食べ終えたら、おかわりすると思う。

「今日の煮物は、豪華やなあ」
僕は素直に感想を伝えた。ところがおばあは顔をしかめ、僕をにらみながらいった。
「これは普通の煮物とちゃう。おでんや!」

たしかにおでんといわれればおでんだけど……。大根やちくわなどは、煮物だといって出されたこともある。牛すじ肉はおでんならではの具材のようだけど、以前おばあがつくったおでんには入っていなかった。だったらおばあがいう「普通の煮物」に入っていてもいいはずだ。それに、僕がおでんでいちばん好きな具材、たまごがないというのも、おでんらしくない。

そもそもおでんが、おでんであるかどうかは何で決まるのだろう。おばあが作る場合、おでんもそれ以外の煮物も味付けは同じだし。味付けや具材以外というと、そうか、鍋だ。寒い夜に、湯気が立つ鍋から具材をよそって、はふはふいいながら食べる。それが僕のイメージするおでんだ。

おばあが今日、おでんといって出したものはすでに皿に盛られている。だから僕は煮物だと思ったのだ。鍋は台所のガスコンロにのっているのだろう。

だけどおばあにとって、テーブルに鍋があるかどうかはおでんとは関係ない。
「じゃあ、何がおでんかどうかを決めるんや!」
僕は思わず強い口調になった。おばあも負けずにいい返す。
「おでんといったら、おでんや!」

結局おでんかどうかは、おばあの心ひとつで決まるということか。その基準は何かと聞たのに、おばあ自身も明確に答えることはできなさそうだ。

僕は席を立ち、冷蔵庫からチューブの練からしを持ってきて、おでんの皿の端に絞り出した。牛すじ肉を箸でつまみ、からしをたっぷりつけて口に入れる。この味こそ、まさしくおでんだ。おでん以外の煮物にからしはつけない。おばあにもチューブを差し出したけど、「いらん」といって突き返された。思ったよりもからしは辛くて、涙が出てきた。