おばあの得意料理&新メニュー! 鶏のもも焼きと、カイワレ大根と桜えびのサラダ

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絶妙な焼き加減の鶏のもも焼きなど、おばあがつくった晩ごはんのメニュー

メニュー
・鶏のもも焼き
・カイワレ大根と桜えびのサラダ
・キムチ

・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

手づかみでかぶりつくと、表面の皮がぱりぱりと砕け、厚みのある肉が、肉汁をほとばしらせながらちぎれていく。目を閉じて、鉄板の熱と塩だけで調理された鶏肉を、口いっぱいに味わう。

鶏のもも焼きは、おばあの得意料理だ。太い骨のまわりにぶ厚い肉があり、表面を覆うのは脂の多い皮。均一に熱を通すのが難しいはずなのに、どこをかじっても絶妙な焼き加減に仕上がっている。とはいえ毎回、まったく同じというわけでもない。

今回は皮の脂が多かったのか、表面が油で揚げたように香ばしい。使い込んだ分厚いフライパンを熱する時間や、そこにのせた鶏肉を裏返すタイミングなどを調整し、食材の微妙な違いに合わせて調理している。おばあは僕に対しては、話を聞かない頑固者だけど、食材にはいつも柔軟に向き合っている。

まぶたを閉じたまま、ゆっくりと口を動かしていると
「なんや、眠いんか!」
おばあが怒鳴る声がした。

おばあの家では食事中、スマホをいじったり本を読んだり、おばあにむやみに話しかけたりして、食べることに集中していないと怒られる。僕が目を閉じていて眠そうに見えたことが、気に入らなかったらしい。おばあの方こそ、ほとんどテレビから目を離さず、横を向いたまま料理を口に運んでいるのに……。

僕はおばあの望み通り、目を見開いて鶏肉をほおばる。するとおばあが、
「どうや?」
といいながら、テーブルの向かい側から身を乗り出してきた。「出された料理は黙って食え」と常々、主張するおばあが、料理の感想を聞いてくることはほとんどない。だけど、今回の鶏のもも焼きの出来については、僕がどう思っているのか気になって仕方ないらしい。口が鶏肉でふさがっているので、僕は目をひんむいたまま、おばあに向かって大きくうなずいた。
「そうか」
とおばあもうなずく。

カイワレ大根にサクラエビをのせて、ポン酢をかけたおばあの料理

鶏のもも焼きの隣に、はじめて目にするメニューがある。カイワレ大根の上に、桜えびがたっぷりと盛られている。そこにポン酢がかけられ、皿の端に添えられているのはマヨネーズ。

カイワレ大根のしゃきしゃきした歯ごたえと辛み、赤色が鮮やかな塩味の桜えび、そしてさわやかなポン酢の風味が、よく合っている。鶏のもも焼きと交互に口にすると、脂っぽさを打ち消してくれて、付け合わせにぴったりだ。マヨネーズもつけて一緒に食べてみると、シンプルな鶏肉の味わいを、別の一品のように彩る。

「この付け合わせ、いいやん」
今度は言葉で感想を伝えた。
「そうか。テレビでやってたんを、つくってみたんや。それよりも、鶏の焼き方はどうや?」
おばあは新メニューのことよりも、鶏肉の焼き加減について、しつこく僕の口から感想を聞きたがる。

焼き加減といえば先日、おばあは冷凍餃子を真っ黒に焦がしてしまった。それがよっぽど悔しかったのだ。だから、得意の鶏のもも焼きをおいしく焼いて、あの日の雪辱を晴らしたかったのに違いない。

「今日はうまく焼けてるやん」
僕は、おばあのリベンジが成功したことを告げた。すると、おばあはうれしがるところか、
「〝今日は”ってなんやねん!」
と声を荒げた。あの日の餃子は、明らかに失敗だった。それをおばあは、この期に及んで認めたくないというわけだ。それならなぜ、鶏肉がうまく焼けているのかいつも以上にしつこく確認したがるのだろう。わけがわからない。

おばあが平らげた、焼いた手羽元(5本)

鶏のもも焼きが得意料理だと自覚しているのに、おばあ自身は口にしない。小さな骨付きの手羽元を何本も、手づかみで多べることのほうが好きなのだ。これも、わけがわからない。