メニュー
・知らん魚の刺し身
・栗の甘露煮
・黒豆
・雑煮
もち、わかめ、かまぼこ
・なます
大根、にんじん、サバ
・酢れんこん、酢ごぼう
れんこん、ごぼう
「正月やから、おなじものしか出さへんで」と、料理を並べながらおばあが言った。黒豆や栗の甘露煮なんかは昨日のメニューと同じだけど、雑煮のダシは年越しそばのつゆの残りじゃなくて新しくつくりなおしているし、魚の刺身が加わっている。
「おなじじゃないやん。新しいのもあるやん」と言うと、「いや、おなじや。余計なこというな」とおばあは言い張る。おばあは、『みんなが休む正月なのに、昨日とはちがう料理を出している』ということを、否定することで逆に強調しているのではないか。
だったらもっと謙遜しているふりでもしてくれれば、料理の手間をねぎらう言葉くらいかけたのに。おばあは僕をにらみつけ、これ以上この話題には触れるな、とでも言いいたそうだ。
どんな理由があるにせよ、正月早々、料理をつくってくれた感謝は伝えたい。僕はおばあの言葉に逆らって理由を探ることにした。
「やっぱり魚があると日本の正月って感じがするなあ。用意したのはさすがやなあ」と、僕は独りごとを言った。おばあは聞いていないふりをしているけど、箸を持つ手が止まって、こちらを意識しているのがわかる。プライドの高いおばあは、自尊心をくすぐられると反応せずにはいられないのだ。
「この刺し身はなんていう魚だったかな」と僕が言うと、「そんなん知らんわ」とおばあはつぶやいた。山育ちのおばあは、魚の種類をほとんど知らない。僕はひと切れ口に入れた。脂がたっぷりのっている。柔らかな身におばあが自ら包丁を入れたらしく、見た目は少しくずれているけど味は上等。
「鯛やったら、焼いたんを買ってくるだけだったんやけどな」とおばあは残念そうに言った。大きな尾頭付きの鯛を買おうか迷ったすえ、おばあは手軽に買える刺し身を選んだのだ。そのことを後悔して、触れてほしくなかったから「おなじ」だと言ったのだろう。正月だからって、孫にそこまでしなくていいよ! と言いかけたけど、おばあの望みどおり黙って食べた。
食べ終えると、「じいちゃんの墓参りに行こうや」とおばあが言った。そういえばおじいは正月になると、大きな鯛を夢中でつついていた。たい焼きでも買っていこうか、とおばあに言おうか僕は迷った。