「なんで両方いっぺんに出てくるねん!」 冷蔵のシュウマイと「味の素冷凍ギョーザ」

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焼きすぎたギョウザと潰れたシュウマイ、刺身(3種)などおばあがつくった夕飯のメニュー

メニュー
・味の素冷凍ギョーザ
・冷蔵シュウマイ
・刺身3種盛り
タイ、マグロ、イカ
・味噌汁
小松菜、豆腐、わかめ
・サラダ

生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

おばあが夕飯に出す餃子は、味の素の「冷凍ギョーザ」と決まっている。おばあは餃子のつくり方も、近くにある「餃子の王将」でテイクアウトする方法もわからないのだ。そのかわり冷凍庫には「冷凍ギョーザ」が常備してある。これなら、冷凍庫から出してすぐ、カチカチに凍ったまま、フライパンにのせて焼くだけでいい。

はじめはフタをしてしばらく蒸し焼きに、それからフタをとって、水分を飛ばして軽く焼き色をつける。それだけで、見た目も味も店で出てくるような餃子が手軽にできあがる、はずなのに……。

おばあがつくった、味の素冷凍ギョーザ(焼きすぎ)

ひと目では、いつもの餃子だとわからないほど黒い。皿に並んだ9つの餃子すべて、フライパンにのせた平らな面に、ぶ厚い焦げの層ができている。耳のような独特の形で、なんとか餃子だとわかる。簡単につくれるはずの「冷凍ギョーザ」を焦がしてしまうなんて。どうしておばあは、料理の初心者みたいな失敗をしてしまったんだ。今までうまくできていたのに。

老人はボケると、料理のつくり方がわからなくなるという。まさか、おばあに、恐ろしい事態が起こりつつある。その前兆ではないのか。いや、ほかにもいろいろ料理をつくっているし、まだまだ頭は元気なはず。そうであってほしい。だけど餃子からは焦げくさいかおりが立ち上り、それを嗅ぐと、頭の底から不吉な想像が沸き上がってくる。

おばあがチンした、冷蔵のシューマイ(潰れてる)

おかしなのは餃子だけじゃない。餃子の隣には、冷蔵のシュウマイまであるのだ。このシュウマイは、電子レンジで温めるだけでおいしく食べられる。「冷凍ギョーザ」と同じく、冷蔵庫にストックしてあり、おばあが夕飯の用意をするのが面倒なときに出す。それを両方、おなじ食卓に並べるなんて、楽をしたいときにやることじゃない。いくら簡単にできるといっても、何品も準備するのは面倒だろう。

しかも今日のシュウマイは、上から押しつぶしたように平たく潰れてしまっている。電子レンジで温めるとき、強い力でラップをかけ、必要以上に押さえつけたのだ。ラップはふんわりと軽くかけるという、今までできていたことを、おばあは忘れてしまったのか……。

おばあが夕飯のために魚屋で買ってきた、鯛とマグロとイカの刺身三種盛り

それに今日は、見るからに質のいいタイやマグロの刺身もある。これならなおさら、餃子かシュウマイのどちらかさえあれば、じゅうぶん満足できる。

とにかく腹が減っているので、餃子をひとつ食べてみる。焦げた部分をできるだけ避けて、恐る恐るかじった。すると、わかった! と僕は思わず叫びそうになった。

餃子は多すぎる油で、べっとりと覆われていた。すこし口に入った焦げた部分は、カリカリとして思ったほど苦くなく、まるで揚げ物みたい。おばあは餃子を焼くとき、フライパンに油をひきすぎたようだ。それが原因で温度が上がりすぎ、焦がしてしまったのに違いない。おばあは手順を忘れたのではない。単純なミスをしてしまっただけだ。

餃子は焦げてしまったけど、まったく食べられないほどではない。捨ててしまうのはもったいないし、そのまま出すのも、長年、誰かに料理をつくり続けてきたおばあのプライドが許さない。そこでおばあは、冷蔵庫からシュウマイを取り出した。次は失敗させまいというプレッシャーで、おばあはつい力を込めてラップをかけ、電子レンジで温めた。おそらく、そういうことだ。

「餃子もシュウマイも一緒に出したんは、なんでや?」
おばあに聞いてみた。おばあはテーブルの向かい側で、焦げた餃子をバリバリと音を立てながら噛み砕いていた。今さっき僕が想像した答えが返ってくるのかと思ったけど、
「お前が、いろいろ食いたいやろうと思って、どっちも出したんや!」
とおばあは叫んだ。開いた口から、黒い餃子のかけらが、僕の席のほうまで飛んできた。ムキになって、僕のせいにしているところを見ると、やっぱり予想した通りだ。僕はなぜかうれしくなって、餃子を丸ごと口に放り込み、おばあに負けないほどの音を立てて噛みつぶした。