“おばあちゃんの原宿”でおばあに土産を買う! 巣鴨とげぬき地蔵尊の“飲むお札”御影

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巣鴨地蔵通り商店街の入り口の門

久しぶりにやってきた東京で、必ず行っておきたい場所があった。“おばあちゃんの原宿”として知られる「巣鴨地蔵通り商店街」だ。

事前に目にした情報では、通りは高齢者であふれかえっているそうだ。軒を連ねる商店には、おばあちゃん好みの衣料品や置物、手押し車、ルーペ、仏具などがところ狭しと陳列され、いたるところで煎餅や大福といった和風の菓子を買い求める行列ができているという。

東京はいうに及ばず全国からやってくるおばあちゃんたちは、ショッピングだけを楽しみにしているわけじゃない。目的地はあくまで、通りの中ほどにある「とげぬき地蔵尊」こと高岩寺。ここは病気平癒や延命などに絶大なご利益があるとされている。立ち並ぶ店の品揃えといい、現世利益を叶える寺の存在といい、健康とおしゃれと残り寿命が気になる世代にとってこの商店街はまさに聖地というわけだ。

大阪で待つおばあは近ごろ、何かと面倒くさがるようになった。口癖は「もう、いつ死んでもええ」。遠くて人が多くごみごみしている東京には行きたくもないという。住んでいる親戚や知り合いもいないので、このままおばあは死ぬまで東京に来ることはないのかもしれない。

だったら僕が東京に来たついでに、おばあへの土産を巣鴨地蔵通り商店街で買ってやろう! それが気に入れば、おばあ自身も行ってみたいと思うだろう。巣鴨で新鮮な刺激を得れば、まだまだ生きて楽しいことを経験してみたいという気力が湧いてくるに違いない。

とげぬき地蔵尊にも、まずは僕が代わりにお参りしよう。四国八十八ヶ所のお遍路や伊勢神宮では、本人の代わりに参拝する代参というものがよく行われているそうだ。きっとここで僕が代参しても、おばあの健康長寿にご利益があるはず。

おばあの長寿を祈り土産を買う! そう心に決めて商店街の入口までやってきた。だけどこの日は雨。

雨の日の巣鴨地蔵通り商店街の様子

人通りは途切れないけど、原宿のような活気はなく、行き交う人たちは下を向いていてどことなく元気がない。高齢者が特に多いというわけでもなく、気勢が削がれて僕も思わずうつむいた。

巣鴨地蔵通り商店街のゆるキャラ、すがもんのおしり

巣鴨地蔵通り商店街のキャラクター「すがもん」のおしりだというオブジェクトが門の脇で迎えてくれていた。さわると良縁があるというので、手を置いてみるとふかふかのぬいぐるみのような感触。短い毛足の表面は雨の日の湿気を吸って冷たくじっとりとしていた。

巣鴨地蔵通り商店街の塩大福屋の前に並ぶ人たち

人だかりができている塩大福の店を横目に通り過ぎる。大福はおいしそうだけど、勢いを増してきた雨の中、行列に並ぶのはためらわれた。

ここはまず、僕が食べたかったもので腹ごしらえして、気合を入れよう。食べている間に雨もあがるかもしれない。

この商店街には、「喜福堂」という有名なあんぱんの店がある。氷砂糖を使って練り上げたあんが、ふんわりもちもちしたパンで包まれた焼きたてのあんぱん。それを目当てに行列ができるそうだ。僕は数あるパンの中でもあんぱんが好きなので、これはぜひとも味わっておきたい。

巣鴨地蔵通り商店街でアンパンが人気の喜福堂。この日は休み

ところがこの日、「喜福堂」の入り口にはねずみ色のシャッターが下りていた。僕はしばらく店先に立ち尽くしたあと、他にも食べたいものがあったことを思い出した。

表面は揚げ物のように茶色く、たわら型のおにぎりに似た形。ひとくち噛めば、カリカリかつ噛みごたえのある皮の中から、肉やニラなどをこねたあんがこぼれ出てくる。「ファイト餃子」で餃子を食べると、それまで抱いていた餃子の概念がひっくり返るという。餃子もまた僕の好物なので、これはぜひとも味わっておきたい。

巣鴨地蔵通り商店街にある人気の餃子屋、ファイト餃子。火曜日は休み

ところがこの日、「ファイト餃子」の入り口にはねずみ色のシャッターが下りていた。僕は店先に立ち尽くした。なすすべなくカバンを探ると、いつだったかおばあがくれた塩飴があった。透明フィルムの包装にべっとりと貼り付いた飴を引きはがし、口に入れると、腹の底から力が湧いてきた気がした。僕はまた歩きはじめた。

巣鴨地蔵通り商店街の高岩寺の入り口に並ぶ提灯

とげぬき地蔵尊こと高岩寺は、商店街に面していたのですぐに見つかった。晴れた日は高齢者でごった返しているらしいけど、この日は寂しいくらいに空いている。

巣鴨のとげぬき地蔵尊、高岩寺の常香炉

本堂の正面にある常香炉に、おばさんが線香を投げ入れ、立ちのぼる煙を手であおいでいた。体の調子が悪い所に煙を浴びるとよくなるという。大阪の寺でも見たことあるけど、今まで自分で線香を入れて煙を浴びたことはなかった。

巣鴨地蔵通り商店街の高岩寺で線香やタオル、御朱印帳などを売っているところ

今回は僕も線香をひと束、購入する。

巣鴨のとげぬき地蔵尊、高岩寺で線香に火を点けているところ

束のまま備え付けの着火装置に入れてじっと待つ。台湾の寺で強力なガスコンロで線香に着火したのと比べ、控えめな火力で安全だ。湿気ているのか、表示された30秒の倍の時間がかかった。

巣鴨のとげぬき地蔵尊(高岩寺)の常香炉に線香を入れて煙を浴びる

火の着いた線香の束を常香炉に入れ、頭や体に煙を浴びる。両手で煙の混じった空気を掴み、おばあが痛いといっていた膝にも放つ。

巣鴨(高岩寺)のとげぬき地蔵。体の悪い所に水をかけて洗うと良くなるそう

奥へと進むと、石造りの観音像が雨に打たれていた。手前の石のくぼみには水がたたえられ、柄杓が置かれている。有名な「洗い観音」だ。

巣鴨(高岩寺)のとげぬき地蔵。体の悪い所に水をかけてタオルで拭いているところ

おばあさんがやってきて、観音像の頭から柄杓で水をかけ、タオルで観音像の腕や足を丁寧に拭く。常香炉の煙と同じく、自分の体に調子の悪いところがあれば、観音像の同じ部分を拭けば良くなるということらしい。すぐ横の売店で白いハンドタオルを売っていたので購入し、水をかけたあと観音像の膝や頭、腹などを拭いた。

巣鴨のとげぬき地蔵尊、高岩寺の本堂

高岩寺の本尊は延命地蔵菩薩という秘仏。公開していないので直接、拝むことはできない。だけどその姿をかたどった御影にも本尊と同様の延命のご利益があるそうだ。僕は本堂に参拝したあと、脇の窓口で僧侶に100円を納め、紙に描かれた御影を5枚いただいた。

とげぬき地蔵尊の御影は“飲むお札”として知られている。体の悪い所に貼るだけではなく、口から飲み込むと効力を発揮するのだ。

本堂で配布している資料『とげぬき地蔵尊御縁起抄』に、御影を飲むようになった由来がのっている。

正徳五年のある日この毛利家の女中の一人が、あやまって口にくわえた針を飲み込んでしまった。女は苦しみもがくが医者も手のほどこしようがない。そこに西順来たり、「ここに地蔵尊の御影がある。頂戴しなさい」といって、一枚を水で飲ませた。すると間もなく、女は腹中のものを吐き、きれいな水で洗っていると、その中に、飲み込んだ針が、地蔵尊の御影を貫いて出て来たという。

巣鴨のとげぬき地蔵尊、高岩寺で買えるお守り、御影(みかげ)

つまりこの御影が、とげぬき地蔵尊という呼び名の元になっている。いつも大声で毒ばかり吐いているおばあに飲ませたら、トゲの生えたどす黒い塊を吐き出しそう。飲み込むことで高血圧にも効力があったらうれしい。

これで巣鴨でのミッションの半分が終わった。ひと仕事終えたらお腹が減っていたことを思い出した。たしか餃子やあんぱん以外にも、人気の食堂があったはず。

巣鴨地蔵通り商店街で人気の定食屋、ときわ食堂

高岩寺のほど近くに「ときわ食堂」はあり、店の前に2人のおばあさんが立っていた。よほど“おばあちゃんの原宿”に似つかわしくないのか僕が近づくと、じろじろと好奇の目で見られた。いつの間にか雨は上がっていた。

〈後半へ続く〉