料理の話題はおばあの地雷。カキフライとサバの炊いたん

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メニュー
・カキフライ(商店街の惣菜屋のもの)
・サバの炊いたん
・大根おろし
大根、じゃこ
・みそ汁(2日め)
春菊、たまご、豆腐、玉ねぎ、油あげ、青ねぎ
・すき焼き(3日め)
牛肉、豆腐、長ねぎ、糸こんにゃく、にんじん、えのき
・サラダ

生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

揚げた衣が黄金色に輝く楕円形。噛めばさくっと音を立てて崩れ、中から濃厚でやわらかな海の滋養があふれ出す。想像しただけで花粉症のつらさが吹き飛び春の陽気が心を満たす。今日はカキフライだ! 焼いたものや生もいいけど、カキはフライが最高だと思う。

ちょっと残念なのは、今日のカキフライは出来合いのものを買ってきたらしいということ。おばあが揚げたのなら、鍋に張った油を効率よく使うために、鶏の唐揚げやさつまいもの天ぷらなど、他の揚げ物も一緒に並んでいるはずだ。

おばあは揚げ物をあたためるときフライパンで熱してくれるので、電子レンジを使うより衣のさくさくした食感は残る。だけど揚げたてよりは湿気ているし、中心まで均一に温めるのは難しい。惣菜の揚げ物はどうしても味が落ちる。とはいえカキフライが目の前に並んでいるとうれしくなる。好きなものだからこそ色々といいたくなるのは、阪神対巨人のナイター中継を眺めながら終始ぼやいていたおじいと一緒だ。

ただし僕はぼやかない。おばあに怒鳴り返されて料理をゆっくり味わうどころではなくなってしまう。しかも料理のことになると、調理法や食材について質問をしただけなのに、文句をつけているとおばあは受け取るらしく、途端に不機嫌になって声を荒げたりする。だから僕は食事中、むやみにおばあと話さない。

おばあのほうに目をやると、一品たりない。なんとおばあの今晩のメニューにはカキフライがないのだ。

僕の視線に気がついたのか、みそ汁の椀を取り上げながらおばあがいう。
「サバの炊いたんもあるし、すき焼きもあるし、こんだけあれば腹が膨れるんや」

たしかにテーブルにはサバの煮つけや大根おろし、クタクタになったすき焼きの残りまで、それぞれが皿に盛られてずらっと並んでいる。いつもの味噌汁やサラダまであって、僕もこれだけでじゅうぶん満腹になりそう。なぜ惣菜のカキフライを僕にだけ追加してくれたのだろうか。聞いたところで、不満があるのかと勘違いしたおばあの怒りを買うだけだ。ここは黙ってありがたくいただくことにする。

おばあがつくったサバの煮つけもうまい。弾けるようなぷりぷりの身に、醤油と砂糖の甘辛い味付け、そして刻み生姜が効いていて、これだけでごはんが一杯食べられる。さらに今日は、カキフライまである。僕はひとつずつ数が減るのを惜しみながら、7つの大きなカキフライを胃袋におさめた。おかずを完食し、ごはんを大きめの茶わんに二杯つめこんだ腹には、もうこれ以上何も入りそうにない。

僕は時間をかけて味わって食べたので、おばあはすでに台所で洗いものにとりかかっている。食べ終えた食器と、カキフライが入っていたトレーを持っていくと、おばあが怒鳴った。
「おまえ、カキフライ! ぜんぶ食ったんか!」
洗いもの中の手を大げさに振り、洗剤の泡が僕のセーターやあたりに飛び散った。どうやらおばあは、僕がカキフライを残すことを見越し、明日の昼のおかずにでもしようと思っていたらしい。

さすがにそれは、ちゃんと言葉で伝えてくれんとわからへんで! カキフライ好きなんやし、ぜんぶ食ってしまうわ! そういいたかっけど、おばあがまた泡のついた手を振り上げたので、僕は急いで台所から引き下がった。