メニュー
・鯛のあらの炊いたん
・大根おろし
大根、じゃこ
・みそ汁
白菜、豆腐、わかめ、じゃがいも
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
日が暮れていつもの時間におばあ家にやってきた。食卓のある居間に続く襖戸を開けるとおばあがいない。テーブルにはみそ汁とごはん、大根おろし、サラダというシンプルな献立が、僕とおばあのぶんの2セット、向い合わせに置いてある。今晩はメインと呼べるようなおかずがないのはなぜだろう。
あたりには醤油とダシで何かを煮込んでいるような食欲をそそる香りが充満している。棚と冷蔵庫に隔てられた台所に向かう。そこでは火にかけた鍋の前におばあ立ち、まだ何かを煮込んでいた。
鍋を覗くと、白身魚の身が残った中骨や、赤い皮の大きな頭がぐつぐつと煮込まれていた。これは、鯛のあらだ! 魚屋では魚を三枚におろした中骨の部分や頭など、調理や食べるのに手間がかかる部分が身よりも安く売られている。
とはいえ頭の大きさからすると立派な鯛に違いなく、おばあがひいきにしている魚屋はいつも新鮮で質のいい魚を取り扱っている。それを長年、煮物をつくり続けてきた味にうるさいおばあが煮込んでいるのだ。おいしくないわけがない。鼻から息を吸うたびに濃厚な鯛のダシと醤油の合わさった香りを感じ、唾があふれ出してくる。
おばあは皿に鯛のあらを盛り付け、後ろで眺めていた僕に手渡した。二つ一緒にテーブルに持っていこうと、別の皿にも鯛のあらが盛られるのを待っていると、
「はよ、持って行け! そんではよ食えや!」
強い口調で急かされた。
せっかくおばあのぶんも運んでやろうと思ったのに。邪魔なら邪魔だといえばいいのに。いつもより料理の準備が遅れたからって、人に当たることもないのに。
いろいろといい返したかったけど、空腹が我慢できなくなってきているので今日のところは引き下がった。
鯛のあらが乗った皿をテーブルに並べる。ひとつしかなかった鯛の頭は、僕にくれた。頭は目玉のまわりや、骨のすき間を少しずつほじくって食べるのが楽しい。骨のまわりの身はふっくらとしていて、溶けた脂がきらきらと光り、見るからに良質な鯛。味付けは、うす口醤油と砂糖やみりんで甘めに仕上げているはず。これ以上、おいしいものを食べるために、何がいるだろうか。僕はひと切れを手でつかんでむしゃぶりつきたい衝動をこらえ、写真を撮るためにカメラを構えた。
何度かシャッターを切っていると
「はよ食えっていうたやろ!
おばあの怒鳴り声がした。
「熱いのがうまいんや!」
そうか! 素材の良さと味、それにでき立てであることも、料理のおいしいさの重要な要素のひとつだ。おばあは料理の準備が遅れていたんじゃない。最高においしい状態で鯛のあらを食べさせるために、僕が来るのを台所で待っていたのだ。僕はカメラを置いて、代わりに鯛の中骨を手で持ち、まわりについている身にかぶりついた。たしかに鯛のあらは、熱いほうがうまい。