メニュー
・味の素冷凍ギョーザ
・納豆
納豆、卵黄
・みそ汁
白菜、豆腐、わかめ、たまご
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
料理がおいしく感じるかどうかは、見た目の要素も大きい。そのことをおばあはよくわかっている。
焼き餃子ならいつも、こんがりとしたうす茶色の焼き目をおもてにして盛り付ける。見るからにぱりぱりの食感と、香ばしいかおり、そして少しの苦味が想像できる。それが反対側のやわらかな生地やジューシーな具材と相まって、焼き餃子を口に入れたときにしか感じられない幸せなおいしさをつくりだすのだ。考えただけで口じゅうが唾液でいっぱいになる。
それが今晩はどうしたのだろう。皿の上の、味の素の冷凍ギョーザは、フライパンで焼かれた面がすべて下を向き、持ち上げなければまったく見えない。もちもちとした食感の部分もいいけど、焼き餃子はやっぱり香ばしく焼き上げられている面があるからこそ食べたくなる。焼いた面を下にするのは、盛り付けが簡単だったのかもしれないけど、何だか味気ない。
一緒に並んでいる納豆も、いつもなら陶器の小皿に入れ替えられている。それが今日は、発泡スチロールのでこぼこした容器のままだ。味はかわらないけど、移し替えた皿のほうがちょっと高級感があって食欲をそそる。
サラダのトマトもこれまでは、片側に揃えられていたり放射状に並んでいたりしたのに、今日は他の野菜の上に、さまざまな方向をむいて散らばっている。
そういえばみそ汁の具材も、たまごが増えているものの、他は昨日と同じだ。昨日の残りをあたため直し、そこにたまごを加えたらしい。
おばあは今日、料理をほとんどつくっていない。餃子は冷凍だし、サラダはトマト以外、数日ぶんのつくり置きがある。しかも、納豆や餃子、トマトの盛り付けはいつもの一手間をはぶき、見た目は二の次だ。
「おばあ、調子悪いのか」
そういいながら僕は顔を上げ、テーブルの向かい側を見た。イスに座っているおばあはテレビの方を向いたまま、目をつぶってぴくりとも動かない。すでに皿の料理はなくなっている。ちゃんと見ていなかったけど、はじめから量が少なかったようだ。食欲があまりなかったのかもしれない。
寝ているのだろうか。僕は納豆の入った容器を、おばあの鼻の下に近づけた。ゆっくりと目が開き、
「なんやあ」
といって、おばあはめんどくさそうに納豆の容器を払いのけた。やっぱりおかしい。普段のおばあなら、僕を怒鳴りつけて、嫌いな納豆をはたき落とすことくらいはするのに……。
強がりのおばあは、自分から体の調子が悪いとはいい出さない。いくら聞いても元気だという。
「明日、病院に行くんやで」
という言葉に、おばあはようやく頷いた。
僕は自分とおばあの食べ終えた食器を、台所のシンクに運んだ。いつもは僕が食器を洗うと、汚れが落ちないとおばあは文句をいい、僕を押しのけて自分で洗いはじめる。だから洗いものを手伝うことは滅多にない。
だけど今日は、おばあは何もいってこない。また目をつぶって眠ってしまったのだろうか。明日、タクシーを呼んで、一緒に病院に行ったほうがいいだろうか。洗いものの後におばあの様子を見て決めよう。そう思って僕は、急いで手を動かした。汚れが残って後から文句をいわれるかもしれないけど、おばあがいつもの元気を取り戻してくれるなら、そのほうが絶対いい。