メニュー
・炊き込みごはん
切り干しにんじん、ごぼう、こんにゃく、たけのこ、しいたけ
・ナカムラさんの煮物
切り干しにんじん、切り干しだいこん、大豆、ひじき、ちくわ
・小いわしの揚げたん
・白菜の漬けもの
・みそ汁(2日め)
白菜、豆腐、わかめ、たまご
・さつまいも
・イヨカン
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
いつもより品数の多い料理がテーブルにずらっと並んでいる。どうやらおばあは今日、「食事会」に行ってきたらしい。近所の親しい80代の女性が4人集まり、持ち寄った料理や菓子を食べながら、昼から夕方までしゃべり尽くす月2回の定例イベントを、上品に「食事会」とおばあたちは呼んでいる。
テーブルのさつまいもは、会場になったメンバー宅の灯油ストーブの上で焼いたものだろう。寒い時期はほとんど毎回、おばあは焼きいもを持って帰ってくる。
干した大根やにんじんの煮物にも見覚えがある。おばあの数十年来の友人、ナカムラさんがつくったものだ。皿に山盛りの小イワシの天ぷらも、ナカムラさんが揚げたのだろうか。
小イワシを箸でつまもうとすると、テーブルの向かい側のおばあが身を乗り出し、ひとつ手づかみで口に入れた。82歳とは思えない素早い動作と行儀の悪さに、僕は言葉が出なかった。「食事会」の日は、おばあは夕方まで飲み食いしているので夕飯は食べない。だけど食べ物を見ていると小腹が空いてきたらしい。
「このイワシはな、クロカワさんの知り合いが釣ってきたんや」
小イワシを口に入れたままおばあがいった。
「じゃあ、調理したのは?」
「ナカムラさんや」
塩加減がちょうどいい白菜の漬け物も、
「ナカムラさんが漬けたんや」
とのこと。
漬け物を口にすると、ごはんが欲しくなる。手を伸ばした茶碗に入っているのは僕の好物、炊き込みごはんだ。ごぼうやこんにゃく、しいたけなどの細かく刻まれた具材が、ひと口ごとにさまざまな食感をつくりだす。醤油とダシの味つけもいい。だけど何かが物足りない。炊き込みご飯の具材で、僕がいちばん好きな、鶏肉が入っていないのだ! 強火のガス釜で炊いた鶏肉特有のあのぷりぷりの食感も、ごはんに吸収された鶏肉のうま味も感じられないとは……。
この炊き込みごはんもナカムラさんがつくったのだろうか。おばあに聞くと、
「それはちゃう! 家でつくって食事会にも持っていったんや!」
怒ったように否定する。ナカムラさんだけではなく、おばあ自身もちゃんと料理をつくって友達に振る舞ったことを強調したいらしい。
だったらなぜ、炊き込みごはんに鶏肉が、今日に限って入っていないのだ。おばあも鶏肉が大好きだったはずだ。
「鶏肉が嫌いな人もおるねん。たまにはがまんせえ!」
おばあにまた、大きな声を出されてしまった。おばあは「食事会」のメンバー全員が食べられるように炊き込みごはんから鶏肉を抜いたのだ。それなら仕方ないか……。
小イワシの天ぷらをまだ食べていなかったことを思い出した。ひとつつまんで口に入れる。揚げてから時間が経っているはずなのに、衣がサクサクとしている。衣をしんなりさせず、どうやってあたためたのか、骨まであつあつだ。身には適度な弾力があり、イワシが新鮮なことがわかる。味付けは、僕好みのうす味だ。
炊き込みごはんとも相性がいい。こんなおいしい小いわしの天ぷらが食べられるなら、鶏肉なんて必要ない! それに「食事会」では、おばあたちが楽しく語らっているみたいだし、よく笑うと病気になりにくくなって長生きするというし、炊き込みご飯の鶏肉なんてちっぽけなことはどうでもいい! とりあえず、今日のところは、そう思っておくことにした。