メニュー
・カンパチの刺し身
・おでん(2日め)
骨付き鶏もも肉、大根、たけのこ、ごぼ天、厚あげ、ねじり糸こんにゃく、じゃがいも
・みそ汁
あげ、白菜、豆腐、青ネギ
・野菜
(生:きゅうり、茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草〉
・ごはん
「君の名は。」を、おばあが見たいというので、先日一緒に見に行った。鑑賞後のおばあの感想は、
「男の子と女の子が入れ替わったんやろ?」
そんなの、映画を見る前から、おばあの好きなワイドショーとかでさんざん言われてたことだよ。しかも疑問形で僕に確認してるし。つまりおばあは内容をまったく理解できなかったらしい。
それもそうだ。高校生の日常というのも、男女の内面が入れ替わるSF要素というのも、ドラマとアニメは朝ドラとサザエさんしか見ないおばあには接点がなさすぎる。おばあ自身も、ワイドショーであらすじは聞いていたはずだから、理解できないことは想定していたはずだ。
ただ、世の中で流行っているものに触れてみたい、なんだかわからないけどすごいものを見てみたいという、いつまでも衰えない八十三歳の好奇心に応えたくて映画館に連れて行った。それに、新しいものに接して刺激を受けていると、いろいろ考えて脳が活性化し、ボケにくくなりそうだ。
自分なりの価値の基準を持つことも大事だけど、わけがわからなさそうでも世間の流行に乗っかってみたいという八十代に僕はなりたい。おばあにはすぐに癇癪を起こしたり他人の失敗を面白がったりする、真似したくない部分も多いけど、いくつになっても新しいものを追い求める姿勢だけは見習いたい。
ところが今日のメニューはどうしたことだろう。新鮮でぷりぷりした食感のカンパチの刺し身も、味が染み込んだ2日めのおでんも、味はどれも文句のつけようがない。だけど、この組み合わせは以前に食べたメニューとまったく同じだ。
同じ料理を出すな、というわけではない。そもそも僕は毎日、朝と昼はおばあのつくるおにぎりばかりを食べている。だけどなぜ、無限にある料理の組み合わせのなかで、2日めのおでんのときに、決まってカンパチの刺し身が出てくるのか。
常に新しいなにかもとめる探求心を賞賛したばかりだからか違和感がある。味が芯まで行きわたり煮込みすぎてもいない2日めが、おでんのいちばんおいしいときだと思う。そこにあえて、イカでもマグロでもなく、カンパチを合わせる。おばあにとってはこの組み合わせが、新しいおいしさをもとめる探究心に勝るコンビネーションなのだ。でも、数ある料理の組み合わせは無限に近い。そのなかから、さらにベストだと思えるものが見つかるかもしれない。おばあの、衰えを知らない好奇心はどこにいったのだ。
おばあの意図がつかめず、料理を前にして黙っていると、
「今日のおでんには大根が入っているから、刺し身と合うで」
とおばあがいった。そうだ、今回のおでんには前回とちがって大根が入っている。ブリ大根という料理があるくらいだし、カンパチはブリの仲間だから、合わないわけがない。
箸でつかめないほどやわらかくなった、あつあつの大根を食べたあと、カンパチの刺し身を口に入れる。引き締まった身の歯ごたえと冷たさが、大根の甘味が残る口のなかで、より強く感じられる。やはりおばあは、料理でも新しいおいしさを追求している。おばあの探究心は無限だ! そう思うとうれしくなった。
それから料理を食べていると、おばあがいう。
「この前テレビでやってたやつやけどな、楠公飯がでてくるマンガあったやろ」
楠公飯とは、戦時中に食べられていた米を節約する料理で、「この世界の片隅に」というアニメ映画に出てくるらしい。先日の夕方にテレビでやっていた。
おばあは「君の名は。」が理解できなくても、最新流行のアニメ映画を見ることに懲りていなかった。見たあとに戦時中の非常食をつくってみたいとかいいだされると困るなあ。そう思いながら、僕はスマホで近くの映画館のウェブサイトを開いた。