メニュー
・カニクリームコロッケ(商店街の魚屋のもの)
・知らん魚の煮付け
カラスカレイ?
・豚汁
豚肉、大根、白菜、ちくわ、青ネギ
・野菜
生:トマト、キャベツ、きゅうり 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
たわら型のフライに赤いハサミがついている。衣を箸で割ると、中にたっぷりと詰まっていたクリームがとろりと流れ出た。赤いハサミとクリーム……これはたぶん、カニクリームコロッケだ。冷凍のものなら食べたことがあるけど、こんな立派な爪は生えていなかったし、中身がとろっと流れ出ることはなかった。
口に入れると、濃厚なクリームが舌の表面を覆っていく。それをサクサクとした衣が受け止め、すき間に染み渡りながら一体になる。ときおり感じるコーンの食感が心地よく、細かなカニの身がクリームに混ざっているのがわかる。飲み込んだ後もカニの風味が口の中に残り、香りが鼻から抜ける。
おばあがこれをつくったとは思えない。揚げ物は得意だけど、洋食になるとさっぱりで、パスタも茹でられない。クリームソースなんて名前も知らないだろうし、カニのハサミを取り付けるなんてシャレた発想を思いつくわけがない。では、どこかで買ってきたのだろうか。近所のスーパーの惣菜コーナーに置いているのはせいぜい、牛肉コロッケくらいだけど。
百貨店にでも行ってきたのかとおばあに聞くと、
「魚屋や! 商店街の魚屋で買ってきたんや!」
とのこと。今日のもう一つのメニュー、魚の煮付けも、商店街の魚屋がすすめた魚の切り身を買ってきておばあが調理したそうだ。そのとき一緒に、手づくりの惣菜もすすめられたという。
カニクリームコロッケまでつくってしまう魚屋なんて、他では聞いたことがない。この魚屋は扱っている魚の質もとてもいい。煮付けの魚は、脂が乗っていて肉厚で、ぷりぷりと弾けるような弾力が感じられる。薄めの味付けが合っているのは、素材が新鮮だからだ。
おばあがひいきにしている魚屋が商店街にあることは以前から知っていた。そこで買ってきた魚がおいしいので、どんな魚屋なのか見てみたい。というわけで僕は、商店街を通るたびに魚屋を見つけようとしている。だけどいまだに、どこにあるのかわからない。
おいしいカニクリームコロッケまで手づくりするというなら、余計に見てみたくなる。おばあに詳しい場所を聞くと、
「パチンコ屋の隣にあるやろ!」
当然のことのようにいい切る。それはおかしい! パチンコ屋の隣はパン屋とたこ焼き屋だ。だけどそういえば……僕が小さいころ、たこ焼き屋の場所に小さな魚屋があったような……。
「このフライ、なんや知らんけどうまいな」
おばあは自分が何を食べているのかよくわかっていないらしい。しょっちゅう通っている魚屋の場所も覚えていないということがあるのだろうか。それともおばあだけがたどり着ける……。いや、そんな怪奇現象が起きるわけがない。
妙なことといえば、魚の種類も惣菜の名前もわからないまま買ってくるおばあの存在だけで十分だ。