おばあの料理は失敗?計算? カリカリ超ウェルダン豚肉(マヨネーズがけ)

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カリカリに焼いた豚肉やワカメと大根の煮物など、祖母(おばあ)がつくった晩ごはんのメニュー

メニュー
・豚肉?の焼いたん?(超ウェルダン)
・煮物
大根、手綱こんにゃく、たけのこ、ワカメ、
・タコとワカメの酢の物
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

生野菜に海藻、根菜、肉もある。今晩のメニューは一見、栄養のバランスがとれていて健康的。煮物も酢の物も、長年つくり続けてきたおばあの得意料理だから味がいいのは確実だ。

ただ、細かく刻まれたこげ茶色の肉は、豚なのか牛なのかも判別できない。色といいひび割れて縮んだ見た目といい、おばあは肉を焼きすぎてしまったらしい。見るからに肉汁が干からびて固く、味は苦そう。

祖母(おばあ)がカリカリになるまで焼いたウェルダン豚肉

おばあはなぜ、こんな肉を食卓に並べたのか。それは他のメニューを見ればわかる。肉がなければ、メニューの食材は野菜とワカメ、そしてわずかなタコだけだ。さすがにおばあも、それでは物足りないと思ったのだろう。僕と同じくおばあも肉が好きなのだ。

それに、食べられないほど苦いのなら、食卓に並べたりしないはず。せっかくつくったものでも、味が悪ければおばあは容赦なく捨ててしまうはずだ。

おじいの遺品の大工道具も「置いとっても場所をとるだけや」という理由で、大部分を迷うことなく処分してしまった。思い出とか感情といった曖昧なものより、限られたスペースの有効利用という実益をおばあは重視する。

合理的な考えを持つおばあが、食べられもしない料理を皿に盛り、テーブルに並べるという無駄なことをするとは思えない。

一切れ口に入れてみると……苦くない! ビーフジャーキーのような見た目だけど、乾燥しているわけではなく、食感は表面がサクサクでスナックみたいだ。かおりは香ばしく、噛めば脂が染み出してくる。甘味のある脂と肉の味から、豚肉だとわかった。こういう食べ物だと思えば、けっこういける。

独特の食感を出すために、あえて多めの油をフライパンにひいて、素揚げのような調理をしたのかもしれない。だとしたら、この肉料理は失敗ではなく、今の状態が完成形ということか。いや……おばあがフライパンから目を離した隙に、こんな仕上がりになってしまっただけという気もする。

僕が考え込んでいると、
「ちょっと待っとれや!」
とおばあが立ち上がり、台所に向かった。

小分けのキューピーマヨネーズ

食卓に戻ってきたおばあは、
「肉にこれ、かけや!」
とキューピーマヨネーズの小袋を差し出した。

この前、焼いた豚肉が出てきたときも、おばあはこのマヨネーズを渡してくれた。あのときは、食べる前から用意していたけど、今日は後からわざわざ冷蔵庫に取りに行ってくれた。膝に慢性的な痛みを抱えるおばあは、イスから立ったり座ったりするのを嫌がる。だから食事中に必要な調味料などがあると、いつもは僕が取ってくる。

それなのに、今日はやけにサービスがいい。やっぱり肉の焼き加減を失敗したのかもしれない。そこに引け目を感じたおばあは、自らマヨネーズを取ってきたのではないか。

カリカリになるまで焼いた豚肉にマヨネーズをかけたもの

マヨネーズを肉の上に絞り出し、一切れ口に運ぶ。肉汁が少なくなったカリカリの肉に、まろやかなマヨネーズが潤いを与えている。ふつうに焼いた肉よりフライに近い今日の肉は、マヨネーズとの相性が抜群だ。この味わいをおばあは狙っていたのかもしれない。

だけど、そうともいい切れない。おばあはマヨネーズを後から持ってきた。この肉を食べてみて、マヨネーズが合うと感じて取りに行ったのだ。つまり、このカリッとした仕上がりを狙っていたわけではないことになる。

「今日の肉は、焼きすぎて失敗したのか?」と、聞いてみるわけにもいかない。そんなことを聞けば、プライドの高いおばあは機嫌を悪くして、3日はまともに口もきいてくれなくなる。僕は黙って料理を食べすすめた。

先に食べ終えたおばあが、空の食器をシンクに下げに行った。そして戻ってくると、白く四角いスチロール容器を手にしていた。
「これも食べや」
と僕の目の前に納豆の容器を置いた。

納豆の四角いスチロールパック

最近、おばあと夕飯どきに見ていたテレビの健康情報番組で、納豆を取り上げていた。何かと体にいい納豆は、花粉症にも効くらしい。それをおばあは覚えていて、自分は納豆が嫌いなのに、毎年ひどい花粉症にかかる僕のために買ってきてくれていたのだ。

茶碗に入った納豆ごはん(ごはんは残り少ない)

それにしても、おばあはなぜ今のタイミングで納豆をもってきたのだろうか。僕はおかずを食べ終えていて、残っているのは茶碗のすみにごはんが少しだけ。納豆のほうが量が多い。

さっきのマヨネーズの件といい、このダメ押しの納豆といい、今日のおばあはサービス精神がありすぎる。やっぱり肉は焼きすぎただけで、おばあはそのことを言葉には出さないけど、申し訳なく思っているのだ。

納豆を茶碗に流し込んでいると、
「さっさと食えや。洗いもんが片付かへん」
とおばあがいった。そんなこというなら、納豆なんて持ってこなければいいのに。そう思ったけど僕は何もいわず、バランスがおかしい納豆ごはんをかき込んだ。