メニュー
・謎の揚げもの
・茹でもやし
・白菜キムチ
・サラダ
生:トマト、キャベツ、かいわれ大根 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
きめ細かな衣が、ほどよく揚がって色づいている。 中身はよくわからない。肉厚で、形は魚のフライのようでもあるし、小ぶりのチキンカツのようにも見える。だけど衣から透ける中身は全体的に赤っぽく、片面は濃い緑の何かが覆っているのだ。こんな色合いの揚げ物、僕は今まで見たことない。
僕はここ数日、自宅にこもり、風呂にも入らず、溜まった仕事に向き合っていた。歩いて5分のおばあの家に、夕飯を食べに行くこともできず、ただ、おばあが散歩のついでに持ってきてくれるおにぎりで腹を満たしていた。
僕が精神を病んで引きこもってしまった、とおばあは思ったらしく、精神の安定には牛乳が効くとどこかで耳にして、ヨーグルト(おばあが毎朝、欠かさないダノンビオ)も一緒に持ってきてくれた。忙しくても僕の気力は充実しているし、毎日のダノンビオの効果で、お腹の調子はむしろ良くなった。だけどおばあの目には、脂ぎって無精ヒゲがぼうぼう、日の光に当たっていない僕の顔は病的に映ったことだろう。
数日ぶりに僕に食べさせる手料理だから、おばあは腕によりをかけて、今までになかったスペシャルなものをつくってくれたのだろうか。
いや、これは、おばあがつくったというより、商店街で買ってきた総菜に見える……。というのも、おばあは揚げ物をするとき、アルマイトの大きなバットに山盛りつくる。熱した油を無駄なく使うために、2・3日ぶんは食べられる量を揚げるのだ。だけど今日は、はじめからひとり分ずつ皿に取り分けられている。総菜屋で買ってきて、皿に盛ったと考えるほうが自然だ。だとしたら、おばあが揚げ物にしたことがない食材が使われていても不思議じゃない。
買ってきたものが嫌だとはいわないけれど、今日はおばあのつくったものが食べたかった。揚げ物なら、揚げたてがおいしいのでなおさらだ。ところが箸をつけると、揚げたてのカリッとした感触が伝わってきた。
うすい衣を割ると、中身はピンクのサケ! 緑はシソの葉だ。サケの切り身をシソと一緒にフライにしてあるのだ。ほおばると、うすい衣がぱりぱりと心地よく、ジューシーなサケから、うま味の凝縮した熱いエキスがほとばしった。やっぱりこれは、揚げたてだ。やけどしそうになりながら、ゆっくりと味わう。シソの風味がぴったり合っている。ごはんとの相性もばつぐん。香りも味も食感も一体になって、食欲が刺激され、飲み込むたびにまた次が食べたくなる。
本当に、おばあがこれをつくったのだろうか。サケとシソなんて洒落た組み合わせをおばあが思いつくだろうか。それに、バットいっぱいに揚げなかったのはなぜだろう。空腹が満たされても、疑問は深まる一方だ。
気がつけば、僕はほとんど平らげていた。
「うまいか?」
と、めったに料理の感想を聞かないおばあがいった。しわの寄ったうれしそうな顔を見て、僕は誰が揚げ物をつくったのか確信した。