メニュー
・豚のあばら肉とじゃがいもの炊いたん
骨つき豚あばら肉、じゃがいも、ウズラのたまご
・キムチ
・みそ汁
豆腐、玉ねぎ、しめじ、青ネギ
・マカロニサラダ(3日め)
マカロニ、ハム、きゅうり
・サラダ
生:イチゴ、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
西洋ではスペアリブ、沖縄ではソーキともいう骨付きの豚のあばら肉。これまで食べたものはバーベキューソースか、濃口醤油と黒糖で煮込まれていて照りのある焦げ茶色をしていた。ところが今日の夕飯に出てきたものは、ほとんど色がついていない。うす口醤油と砂糖やみりんを使ったちょっと甘めな、おばあのいつもの煮物の味付けなのだろう。
一緒に煮ている具材はじゃがいもとウズラのたまごという、今までに見たことのない組み合わせだ。タンパク質と炭水化物、そして脂。食材はどれもこってりとして腹に溜まりそうなものばかり。こういう食べもの、僕は嫌いじゃない。
でもおばあの口に合うのだろうか。おばあは肉もよく食べるけど、ほとんどが脂の少ない鶏肉だ。82という年齢を考えても、大根とかこんにゃくとかもっとさっぱりしたもののほうが好みのように思える。もしかしておばあは自らの好みより、僕の好きそうなものを優先してくれたのではないか。ありがとう……おばあ。自然と感謝の言葉が心に浮かんできて、煮物が盛られた皿をじっと見つめた。
顔を上げると僕は、今さっきのセンチメンタルな心の声を、なかったことにしてしまいたいと後悔した。テーブルの向かいにいるおばあは、両手で骨付きの豚のあばら肉を持ち、総入れ歯なのを感じさせない力強さで骨から肉をかじり取り、がつがつとむさぼり食っていた。
おばあのことも見なかったことにして、僕も同じように豚肉を手づかみで口に運んだ。ソーキのように骨からほろほろとはがれるほど、肉はやわらかくない。骨の端に軟骨が多く、脂にも弾力があって、骨全体的に噛みごたえがある。甘めであっさりとした味付けはよく合っている。甘辛い洋風のスペアリブよりたくさん食べられそうだ。だけど、2切れも食べるとあごが疲れる。
「これはあかん、固すぎるわ!」
ついにおばあが音を上げた。さらに自分の言葉に納得するようにうなずきながらつぶやく。
「えらい安いから買ってきたんやけどな。これだけ固かったら、そりゃ安いわ」
おばあは食べかけの豚肉を元の皿に戻した。その隣の空になった皿を持って立ち上がる。皿の内側は赤い唐辛子の色が付いている。おばあはいつの間にか、今晩のメニューのひとつであるキムチをひと皿、平らげていた。台所から戻ってきたおばあが手にした皿には、二杯目のキムチが山盛りになっていた。
キムチはおばあの好物だ。それを久しぶりに手にしたおばあの目には、春の陽気のように明るい光が満ちている。だけどキムチは塩分が高い。食べ過ぎると、すでに基準値を大幅にオーバーしているおばあの血圧を危険水域まで押し上げてしまう。そんなことを僕が毎回、口うるさく注意するので、おばあは辟易したらしくたまにしかキムチを買ってこなくなった。
特売の骨付きの豚のあばら肉が口に合わなかったときも、おいしく夕飯を食べるためにおばあはキムチを買っておいたのだ。その抜け目のなさと、純粋な喜びに免じて今日はもう何もいわないでおく。