メニュー
・太刀魚の塩焼き
・たまご焼き
・ポテトサラダ(4日め)
じゃがいも、きゅうり、ハム
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
真っ白な身を包むウロコのない銀色のうすい皮。ところどころについた焦げめから細かな煙が立ち、切り身の断面から脂がしたたる。素材は見るからに新鮮で、焼き加減も絶妙だ。
おばあはひいきにしている商店街の魚屋に並んでいた鮮魚を、僕が夕飯を食べに来る時間に合わせ、フライパンにクックパーを敷いて焼き上げたのだろう。食欲をそそる見た目に、僕はたまらず箸をつかみ、銀色に輝く皮に突き刺した。うすい皮の感触はなくやわらかな身がほろほろとくずれ、裂け目から白い湯気がふわっと上がった。
すると、
「今日は、太刀魚や!」
おばあが高らかにいった。箸を使わず、手づかみでかぶりついている。腹ペコのオオカミが獲物を食らい、あまりのおいしさに雄叫びを上げている光景が頭に浮かんだ。
愛媛の山奥で育ったおばあは、魚の名前をあまり知らない。商店街の魚屋がすすめる旬の魚を名前もわからず買ってきたりする。おばあが名前を覚えているところと、夢中で食べている様子からすると、太刀魚はおそらく指名買いだ。太刀魚の旬はたしか夏ごろだったはず。意外な時期に型のいいのが魚屋に並んでいるのを見たおばあは歓喜し、「今日は、太刀魚や!」とか店先で思わず叫んで買ってきたのに違いない。
「太刀魚、食べたかったんやろ。売っててよかったやん」
僕がいうと、おばあは
「魚屋に並んどったから、買うてきたんや」
他に良さそうなものがなかったから仕方なく選んだ、とでもいいたげだ。なぜ自分が食べたくて買ってきたことを素直に認めないのだろうか。
それどころかおばあは、
「お前こそ、食べたかったんやろ!」
押し付けがましく、細かな白い身がついた指で僕を指す。
「好きか嫌いかでいったら好きやけど、買ってきたのはおばあやんか」
僕だって、おばあにいわれて認めたくない。太刀魚を買ってきたのはおばあなのだから。僕の言葉に、短気なおばあは怒り出すかと思ったけど何もいわず、真下の皿に顔を向け、また手づかみで食べはじめた。僕の顔さえ見ようともせず、一心不乱な様子で食べることに集中している。
おばあへの対抗意識の炎が、胸の奥で音を立てて燃え上がる気がした。僕は箸をテーブルに放り投げるように手放し、薄切りのレモンをつかんで太刀魚の上で荒々しく握りしめた。指の間から果汁がほとばしり、ぼろぼろになったレモンを銀色の皮になすりつける。
両手で身を割り、おばあに負けじと豪快に食らいつく。
「これは、うまいわ!」
思わず声が出た。醤油でもなくポン酢でもなく、レモンの果汁とうすく振られた塩のみという極めてシンプルな味付けが、太刀魚の白身の繊細な味を引き立てている。
おばあは、うまい食べ方をわかっている。やっぱり太刀魚、好きなんやんけ! そう思うと笑顔になるのをこらえられなかった。テーブルに顔が付くほど視線を下げ、うつむいて食べ続けているおばあの顔を覗くとやっぱり、笑っていた。