ついにタケノコを、僕が料理するときがやってきた!
僕の祖母、おばあが毎日のように作ってくれた煮物料理、“炊いたん”にはよくタケノコが入っていた。時期外れでも真空パックの水煮のやつを買ってきて、一年じゅうタケノコの炊いたんが食卓に並んだ。
水煮のパックは便利だけど、それよりおいしいのはやっぱり、旬の時期の新鮮なやつ! 竹かんむりに旬と書いて『筍』というだけのことはある。
そのタケノコが、今年も八百屋やスーパーに並んでいる。おばあのような料理上手を目指すなら、これはもう炊かないわけにはいかない!
とはいえ生のタケノコは、そのまま炊いてもアクが強くて食べられない。おばあはたしか、愛媛の山奥の実家にいたころ、“かまど”の灰で煮てアク抜きをしたと言っていた――
でもそういえば、おばあは大阪で“かまど”がない生活をするようになってから、どうやってアク抜きをしていたのだろう。おばあが料理をしていたときに、もっとよく見て手伝って、調理技術を学んでおけばよかった。
ひとまずGoogleで検索してみると、タケノコは米ぬかと一緒に炊くといいらしい。だけど米ぬかなんて家にない。
ここはやっぱり、おばあがどうやっていたのか直接、聞いてみるしかない。
介護施設に行くと、おばあはぐっすり眠っていた。パーキンソン病が進行し、その日の体調によって、こちらの声に反応しないくらい深く寝ていることがある。
それでも声をかけるとゆっくりと目を開け、僕の問いかけに、
「……ぬかで、炊くんや」
と教えてくれた。
そのぬかをどうやって手に入れたのか知りたいのに、
「ように(しっかりと)炊くんやで」
と言ったきり、目を閉じてまた眠りこんでしまった。
仕方がないので、おばあも通っていた商店街のスーパーに向かう。そして――
立派な土付きのタケノコを購入。心配していたアク抜き用の米ぬかは、なんと――
ビニール袋入りのものが、タケノコとセットになっていた。おばあもこの付属の米ぬかで、生のタケノコのアク抜きをしていたのに違いない。
まずはタケノコのアク抜きから
生のタケノコはまず――
外側の皮をむき、先のほうは残して、後でむきやすいように切れ込みを入れておく。それを鍋に入れ、
タケノコが浸かるくらい水を張り、米ぬかを投入。そこに上から――
落とし蓋(代わりのクッキングシート)を置いて、1時間ほど沸騰させ――
火を止めてそのまま半日以上、放置する。その間もさらにアクが抜けるらしい。今回は長めに丸一日置いておいた。
一日経ったあと、水洗いして米ぬかを落とし、残った皮をむき――
下処理が終了。
タケノコの炊いたん調理開始!
使う食材はタケノコのほかに、炊いたんの定番のこんにゃく、そして鶏の手羽元だ。
タケノコと手羽元の炊いたんは、これまでもおばあが――
⇧こうやって、何度も作ってくれた。
この組み合わせ、懐かしいだけじゃない。骨付きの手羽元から出たダシを、絶妙な食感のタケノコが吸って、抜群の相性を発揮する。さすがおばあ好みのコンビネーション。想像するだけで、もう、早く食べたくてたまらない!
味付けは――
醤油、酒、みりんを大体、大さじ3くらい。砂糖は大さじ1程度。
これを水400mlほどと一緒に鍋に入れ――
ついでに、だしパックも入れておく。そこに――
手羽元を並べ、こんにゃくは――
味がよくからむように、手でちぎって入れる。
そしてメインの食材――
タケノコを入れ、
ふたたび落し蓋をして、30分以上炊いてー―
ほどよく煮詰まったら完成だ!
鍋から立ちのぼる、甘辛い和風の香りが食欲をそそる! とはいえおかずは、これだけではちょっと寂しいので、冷蔵庫にある食材を土鍋で適当に炊いた、いつもの――
闇鍋ならぬ“闇炊いたん”も。この日の味付けは味噌に加えて、
エスビー『赤缶カレー』のパウダー状のルウを入れた、スープカレー風。具材を盛り付け、スープを注ぐ。
そして料理を持って食卓へ。
メニュー
・タケノコの炊いたん
タケノコ、手羽元、こんにゃく
・闇炊いたん
イワシ、小松菜、キャベツ、もやし、さつまいも、しめじ、しいたけ、わかめ
・レンチンじゃがいも
・ごはん(7分づき)
まずはタケノコのいちばん柔らかくておいしい―
先っぽの部分を頬張る。柔らかな層が重なった食感が心地いい。染み出してくる味は、渋みもえぐみもなく、アクはしっかり抜けている。甘辛い和風の味付けが、鶏とカツオの旨味と相まって……これは、懐かしいおばあの味! そのものとは言えないけど、けっこう近い。
そしてごはんとの相性も――
もちろん、ぴったり。炊いたんの味は、ごはんと一緒に食べてこそ真価を発揮する。
だけどちょっと物足りないのは、失敗を恐れて調味料を少なめにしたせいで、味が少し薄いからだ。もしおばあが味見したら、
「もっと、思い切って味付けせえ」
と怒られたはず。
とはいえ、僕が初めて作ったにしてはけっこういける。まだタケノコの時期だし、近いうちにもっとおいしい炊いたんを作ってやる! いつかおばあが食べられるようになったときのために、完璧なやつ
作れるようにしとくで、おばあ!
ちなみに――
冷蔵庫の食材を片っ端から入れた味噌カレー味の闇鍋ならぬ“闇炊いたん”は、スープカレーっぽくて、これまたごはんが欲しくなる味。
おいしいのはおいしい……けど、いろいろ入れすぎたせいか、なんとなく味にしまりがないというか、“何味”と説明しづらく、味がぼんやりしている。
それとは反対に、タケノコと手羽元の炊いたんはおばあがよく作っていただけあって、シンプルだけど完成された味。
おばあが作るものは、初めてのメニューでも、何をどう組み合わせても、味にメリハリがあってどれも記憶に残っている。
自分で料理をするようになって、あらためてわかった。やっぱり料理のセンスも技術もすごすぎるで、おばあ!
その高みを目指して、次はまた違う食材と組み合わせて、絶品のタケノコの炊いたんを作ろうと決めた。