年末年始は毎年、年越しそばとかおせち料理とか、新年を迎えるごちそうを、おばあが腕によりをかけて作ってくれた。
ところが、パーキンソン病が進行したおばあは介護施設に移ってしまった。
残された僕は、年の瀬や正月に手間をかけて料理なんてする気になれず、去年からやり残したこともあるし、普段とほとんど変わらぬ日常を過ごすことに……。
毎年欠かさずおばあが作ってくれた新年のごちそうが、今思い返すと、とんでもなくありがたい、かけがえのないものだったと痛感する。
それに、毎日のように通っているおばあの介護施設は、入居者がインフルエンザに感染して、しばらく面会できなくなってしまった。おばあの様子は職員に電話で確認しただけで、新年のあいさつもできていないし、インフルエンザにかからないことを祈るばかり。
なんて……正月早々、暗い気持ちにさいなまれてばかりもいられない!
やるべきことはいくらでもあるし、今年はさらに充実した年にしたい。
だったら、おばあが長年やってきたように、新年を祝う、めでたい料理を作ればいい!
そう心に決めて、商店街で買ってきたのが――
鮮やかな赤色の鯛。この魚、マダイ……ではなく、よく似ているレンコダイだ。
食べたことないので店先で迷っていると、あとからやってきたおばさまが迷うことなく、ひとパック手に取り「これ、いけるでえ」とすすめてくれた。聞くと、煮ても焼いてもおいしいらしい。
しかも、けっこう大きな1匹が下処理済みで480円という、かなりのお買い得価格。
これはもう、こいつに決めた!
お買い得で「いける」味!?レンコダイを調理
おばあのような煮炊き料理が得意な、“炊いたんマスター”を目指す僕にとって、レンコダイの調理方法はもちろん煮付け一択!
このままだと鍋に入らないので、まず――
半分に切る。鍋には――
水と調味料、それとだしパックを投入して火にかけておく。
量は味見しながらテキトーに醤油、みりん、酒をそれぞれ大さじ3くらい。水は250mlほど。
さらに、この前、NHKのトリセツショーで、料理にはなんにでもお酢を少し加えると味がよくなるとやっていたので、お酢を……と思ったけど、切らしていた。
そこで――
お酢が入っているオタフクの『甘酢あんかけのたれ』を隠し味に、大さじ2くらい加える。
その鍋に――
レンコダイを並べ、
落とし蓋(クッキングペーパーで代用)をしてしばらく煮る。
その間に、これも商店街で買ってきた――
カブをふた株、四等分に切って電子レンジで2分ほどチン。大根と似ているから同じように調理しているけど、実はこれでいいのかちょっと不安。
葉の部分も使うので、水で洗っておく。
そのカブを――
レンコダイを煮ている鍋に追加して、
葉っぱも加えて、また落し蓋をしてしばらく煮る。
これがないと新年が始まらない!?雑煮を作る!
鯛とカブを煮ているあいだに、もう一品! おばあが年始に必ず作ってくれたーー
雑煮を作る。
正月というにはちょっと遅い気もするけど、やっぱりこれがないと新しい年がはじまらない!
具材はおばあが必ず入れていた鶏肉は外せない。もも肉が冷凍庫に残っているはず。そう思って探ってみたものの……見当たらない!?
代わりに見つけたのが――
かなり前に冷凍して、すっかり忘れていた手羽先。とはいえこれも骨付きの鶏肉だし、いいダシが出て、おいしくなりそう!
というわけで、手羽先を鍋に入れ、解凍しつつ焼き目をつける。
そのあいだに――
餅をアルミホイルに包んで、フライパンで焼いておく。
手羽先に焼き目がついたら、鍋に水を入れ――
レンチンしたニンジンや、たまごを割り入れ、
石川県の魚醤『いしるだし』で味付け。
魚の旨味が効いたいしるだしは、これだけで味が決まる万能調味料だ。量は味見をしながらテキトーに。
新年を祝う料理をいただく
レンコダイとカブも――
しっかり火がとおり、煮汁の色がついたら完成だ!
さあ料理を皿に盛りつけて、いざ食卓へ!
メニュー
・レンコダイとカブの炊いたん
・手羽先のお雑煮
・もち麦入りごはん
まずはメインの、
レンコダイから、いただきます!
箸で身をほぐすと、
感触はしっとり、ふっくら。
醤油の色も染みていて、これはもう――
ごはんにバウンドさせて、パクり。そして噛むと染み出す、脂とうま味!
こんなの、ごはんをかき込まずにはいられへんで、おばあ! とつい叫びたくなる。レンコダイ、マダイに勝るとも劣らないおいしさだ。
続いて――
カブを箸で割ると、とろけるようなやわらかさ。大根より食感はなめらかなで、煮ている時間は短いのに味もよく染みていて、これまたごはんに合う!
おばあはカブより大根をよく使っていたけど、やわらかいもの好きのおばあなら、炊いたカブの味、きっと気に入ってくれるはず。今は僕が持ち込んだものは食べられないけど、いつか味わってもらいたいリストに追加だ。
ここで忘れちゃいけない――
雑煮をすする。
これは! いしるだしと手羽先の合わせダシが効いて、またまたごはんが欲しくなる。そこで餅を半分ほおばると、この味、食感。ようやく新しい年を迎えた実感がわいてくる。
おばあが作ってくれたものには遠くおよばないけど、やっぱり正月らしいメニューをいただくと、今年は去年よりもっといい年になる……いや、受け身の“なる”じゃなくて、いい年に“してやろう”という力がみなぎる。
おばあの新年の料理を食べたときも、こんな気持ちになったことを思い出す。ただ、おばあが近くにいないことが寂しい。
そのことを、おばあが暮らす施設に訪問できるようなったら、新年のあいさつと一緒に報告しに行こう。