2月14日のバレンタインデーに、久々に二人で出かけた先はおばあ行きつけの、病院! 直通バスが出ているけど、天気がいいので車イスを押して行くことに。
なだらかな坂が続く交通量の多い道のはしを、車イスを押して進むと、思った以上にしんどい……だけど、いい運動になると思えば爽快な気分! おばあも太陽の光を浴びて気持ちよさそう。
あまりにうれしそうなので――
病院前で記念撮影。
待合室でも、おばあはなぜかずっと笑顔。付き添いの僕のほうが、久しぶりの病院の張りつめた雰囲気に緊張していた。
診察のあと、ひと息つきたくて緑の多い公園に向かった。するとおばあはここでも――
色とりどりの花が植えられた花壇や、
咲き始めた梅の花にも負けないくらい明るい表情に。
おばあがいつになくご機嫌な理由はわかっている。それは、この日が2月14日だから! どういうことかというと……僕がプレゼント用のチョコレートをこっそり用意していること、お見通しなんやろ、おばあ!
その証拠に、帰ってからチョコレートを渡すと、“待ってました!”とばかりにパクパクと食べはじめた。
一昨年まで、バレンタインデーには必ず、おばあが僕にチョコをプレゼントしてくれた。それが去年の今ごろ、おばあはコロナに感染し10日間入院。幸いにも重症化することはなかったけど、退院後は体力ががくっと落ち、手足が動かしづらくなった。今でもその場で立っていることがやっとなのに、チョコを買ってくることなんてできるわけがない。
だったら今年は、僕がプレゼントすればいい。
そんな僕の心の内を、どうやらおばあは見抜いていた。
チョコを一箱、一気に平らげそうな勢いだけど、病院でも特に異常はなかったし、好きなだけ食べればいい。バレンタインデーやし、今日だけやで、おばあ!
味の感想を聞くと、おばあは、
「甘いわあ」
って、チョコレートなんやから、当たり前やで!
とはいえ――
その顔に“満点や!”って書いてある。
「お前も“ひとつ”食べや」
と言われて――
僕ももらった。
「“ひとつ”だけやな!」
とおばあの言葉を繰り返すと、また笑ってくれた。
去年の今ごろ、退院直後と比べて手足は自由に動かないままだけど、表情は元通り……いや、以前より笑うことが増えた。その顔を見たいから、また近いうちに好物をプレゼントするで、おばあ!
次はとびきり甘い和菓子にしよう。それに今度はおばあに感づかれないよう、“何でもない日”にしなければ!