自粛生活に加えて蒸し暑い日が続き、僕のおばあは外出する機会がめっきり減ってしまった。以前のように近所の友人の家を気軽にたずねることもなく、家の前を軽く掃除することも人任せにして、窓際で風にあたりながらテレビを見ていることがほとんどだ。
だけど買い物には毎日のように出かけていき、時間をかけて晩ごはんを用意してくれる。そうして食卓に並んだ『おばあめし』は、さらにおいしくかけがえのないものに感じる。
今晩も手料理を期待しておばあの家にやってくると、テーブルには一抱えもある大きな箱が!? これは……仕出し屋の弁当!?
驚く僕が席に着くなり――
おばあが待ち構えていたように弁当のフタを開ける。その中身は――
赤や黄色、海のものや山のもの、多種多様なおかずがひしめいて、見れば見るほどお腹が空いてくる!
こんな豪華な弁当が晩ごはんとは……昼間に『女子会』してたんやろ、おばあ!
近ごろは開催できていなかったけど、10年以上前からおばあは定期的に近所の友人の家に集まって、高齢者だけの『女子会』を開いていた。そこでは、みんなで持ち寄ったおいしいものを食べて飲んで、おしゃべりして、昼から夕方まで楽しんでいるらしい。
さんざん飲み食いするので、おばあは決まって
「もう、腹いっぱいや!」
と満足げに報告し、『女子会』の日に晩ごはんは食べない。
だけど僕のために、その日に食べたのと同じ弁当を持って帰ってきてくれる。弁当はスーパーの特売品が多いけど……今日のは特別、大当たり!
その理由は、明らかだった。
というのも、『女子会』のメンバーは全員かなりの高齢なので、コロナにかからないようしばらく集まっていなかった。それがおばあは先日、ワクチンの2回目を無事に打ち終えた。おばあの友人たちも、いち早く接種したらしい。
だから感染の不安が減って、久しぶりに『女子会』で集まることができた。そのうれしさが、豪勢な仕出し弁当になったのに違いない!
『女子会』で友人たちと再会できたよろこび、僕にもおすそ分けしてくれて感謝やで、おばあ!
あらためて弁当に目をやると――
エビは煮付けと天ぷらもあるし、ナス田楽があるかと思えば鶏の唐揚げもあって――
大好きな玉子焼きは箸でつまむとダシが染み出し、かじるとなんと……中にはウナギが! さらにカモのローストやカキフライ、マグロの刺身まであって、内容も量も大満足!
それなのに――
イワシの塩焼きが2匹に、
山盛りのサラダまで、追加でわざわざ作ってくれている!
メニュー
・女子会の仕出し弁当
・イワシの塩焼き
・野菜サラダ
生:トマト、ブロッコリー、キャベツ、レタス 茹で:ほうれん草
「今日はえらい豪華やんか」
僕が言うとおばあは、
「食事会で、ようけ食べたからな。これくらい作ったるわ」
と何だか頼もしいことを言う。
『う巻き』を味わい、イワシを頭からかじり、トマトを頬張り…どんどん食べすすめていると、お腹だけでなく、最近の自粛生活ですり減っていた心も満たされていくようだった。おばあが久々の『女子会』で感じたうれしさが、僕にも伝わってきた。