出されたら感謝せずにはいられない!握り寿司とアスパラの肉巻き

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祖母(おばあ)が女子会で食べた寿司やアスパラの肉巻きなどの晩ごはん

メニュー
・握りずし
・アスパラの肉巻き
・茹でもやし(かつお節乗せ)
・茶碗蒸し(みやけ食品)
・サラダ
生:トマト、玉ねぎの醤油漬け、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

すごいぞ、今晩は握り寿司だ! ちらしや太巻きが得意なおばあでも、さすがに握りは買ってくるしかない。しかもこの寿司、見るからに、安さが売りの近所のスーパーに置いてあるようなクオリティじゃない。一体どこで、そしてなぜ今晩、こんな見事な寿司を買ってきたんだ、おばあ!?

女子会で食べた握り寿司

色とりどりのネタは、艶めかしいほどの丸みを帯びて、つやつやと光り輝いている。うすく脂の乗ったマグロはルビーのように透き通り、もっちりとした新鮮な食感が、見ているだけではっきりと想像できる。

みやけ食品の茶碗蒸し

100円ちょっとのスーパーの茶碗蒸しも、握り寿司と一緒に並べば、ワンランクもツーランクも上のおかずに見える。

それにしても、豪華な料理が用意してあるのは僕の席だけで、向かいのおばあの席には何も並んでいない。食いしん坊のおばあのことだ。久しぶりの握り寿司が楽しみすぎて、晩ごはんの時間まで待ちきれず先に食べてしまったのか。

「握り寿司なんて久しぶりやな。おばあは先に食べたんか?」
と聞いてみると、
「そうや。昼に食べたんや。まだ腹いっぱいや」
とぶっきらぼうな返事。

わけがわからない。昼に食べたって、夜には腹が減るだろう。何度もごはんを食べようとする認知症の高齢者の話は聞いたことがあるけど、食べなくなるなんてことがあるだろうか? それにおばあは物忘れはするけど、病気というわけではない……いや、もしかして、ついにおかしくなってしまったのか?

「どうして腹が減ってないんや?」
恐る恐る聞いてみると、
「そりゃ、食事会やったからや!」
と大声で返事が返ってきた。

なるほど、そういうことか。食事会というのは、おばあと近所の友人が定期的に開催する、80代だけの女子会のことだ。集まる場所は、あるメンバーの家と決まっていて、そこに料理やお菓子を持ち寄り、昼ごろから夕方まで楽しく飲み食いしながら、ご近所のうわさ話や健康情報の交換にいそしんでいるらしい。半日がかりで甘いものから辛いものまで「なんやかんや食べる」ので、晩ごはんは必要なしというわけだ。

近ごろは料理をつくるのが負担になっているので、食べ物は買ってくることがほとんどだそうだ。

そして女子会があった日の晩は、おばあたちが昼に食べたのと同じものを、僕のために持って帰ってきてくれる。しかも、それだけじゃない。今晩なら握り寿司だけでじゅうぶんすぎるくらいなのに、茶碗蒸しまでつけてくれているし――

トマトや玉ねぎの醤油漬けを乗せた野菜サラダ

いつものサラダもちゃんと用意してくれている。女子会の日くらい、何もつくらずゆっくりしたらいいのに。そう伝えても、
「面倒なことあらへんわ。サラダは前の日につくっとるしな」
とのこと。だったらこの――

祖母(おばあ)が作った茹でもやし、かつお節乗せ

茹でもやしはどうなんだ、おばあ? 複雑な手間は加えていないけど、シンプルでうれしい一品だ。ついさっき茹でたばかりらしく、まだ温かい。できたてほやほやなのは、明らかじゃないか。まったくおばあには頭が上がらない。

それに寿司ネタのエビだって――

女子会で食べた握りずし(海老、鯛、サーモンなど)

おばあは生の甘エビが好みのはずなのに、今日のはボイルしたやつだ。実は僕は生のエビにアレルギーがあって、食べると口の中や喉が猛烈にかゆくなる。

「僕の生エビアレルギーのこと、覚えてくれてたんやな。ありがとう」
感謝のことばを伝えると、
「なんやて? そんなん知らんがな。エビはこれしかなかったんや」
とおばあはそっけない。

そんなことを口ではいうけど、おばあは自分の好みより、僕の健康を優先してくれたのに違いない。感謝されて照れているだけなのだ。

祖母(おばあ)が女子会で作ってきたアスパラの肉巻き

そしてまさか、アスパラの肉巻きなんてシャレたものも、僕のためにつくってくれたのか? 寿司もあるのに豪華すぎだよ、おばあ。

僕はひとつ箸でつまみ、
「これはどうしたんや」
と聞いてみた。すると、
「それは、食事会でつくったんや!」
となぜかキレ気味の答えが返ってきた。

まさか。おばあの女子会は、飲み食いしながらおしゃべりするだけじゃなく、お互いに料理を教え合うクッキングスクールみたいなことまでやっているのか。そんなはずはないだろう。

「今日はみんなで集まって、料理をつくってたの?」
さらに質問すると
「さっきから、なんやかんやうるさいな。さっさと食えや!」
ついに怒鳴られてしまった。

わかったよ、おばあ。もう何も聞かないよ。

僕は感謝の気持ちを込めながら、アスパラの肉巻きを頬張った。