86歳のおばあの好みは鬼滅の刃の禰豆子柄!おしゃれマスクで『全集中』で作った晩ごはん

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おばあはあまり手を洗わない。外に出かけたあとも、台所に行ったかと思うと、タライに溜まっている水にじゃぼんと手をつけるだけだ。台所に立ったときも似たようなもので、いきなり食材や包丁をつかんで調理をはじめる。

おにぎりを握るときだけは、さすがにしっかり洗ってや! 

僕の切実な訴えに、おばあは「うるさいわ!」と反抗期の中学生みたいにキレてくる。それでも根気強くお願いし続け、おにぎりを握る前だけは水道の流水でしぶしぶ洗ってくれるようになった。石鹸なんて使うわけがないから、ウィルスや菌が怖いけど水道水の塩素の力を信じるしかない。

ただ、あまり手は洗わないくせに、外出時にマスクを着けることだけは忘れない。おばあは手芸が得意な友人からもらったカラフルな手作りマスクをコレクションしていて、毎回違う柄のマスクを着けて出かけていく。しかも家を出る前には、マスクで半分見えない顔を玄関の鏡で入念にチェックするし、同じ日でも違うマスクをしていることさえある。

どうやらマスクは、おばあにとっておしゃれアイテムのひとつらしい。どんな意識であれ、マスクをするのはコロナウィルスの感染予防対策になるから、楽しんで着けてくれるのはありがたい。あとは手洗いをしっかりしてくれれば……。

そして今日も、お腹を空かせた僕が晩ごはんを食べに行くと、なんとおばあが――
鬼滅の刃の柄のマスクを着けている祖母
部屋の中なのに、マスクをしている!?

自宅でひとりで過ごしていたはずなのに、どうして……。誰かが来ていた形跡もないし、おばあの高齢の友人たちも、緊急事態宣言中は互いに行き来しないようにしているはず。

「そのマスク、どうしたんや」
と聞くと、
「作ったのを、送ってもらったんや」
とのこと。どうやら手芸が得意な知り合いが、自粛中にまた新作のマスクをいくつも作って送ってくれたらしい。

「なんで今、マスク着けてるんや?」
「したいからしてるんや!」
そう答えるおばあの、マスクから覗く表情は明るくて何だか楽しそうだ。

昨日から雨が続いて、気分もどんよりしてしまう。だからこそ新しいマスクが届いたことが、よっぽどうれしかったのだ。その中でも、このマスクがお気に入りらしい。

僕も小さかったころ、黄色い長靴とカッパがお気に入りで、雨でもないのに身に付けて三輪車を乗り回していたことがある。

それにしても……そのマスクのデザイン、どこかで見たことがあると思ったら、鬼滅の刃に出てくる柄やで、おばあ!

『鬼滅』の主人公の妹、禰豆子の着物と同じだ。マスクを作った知り合いも、もちろんおばあも知らないはずだけど……。そのデザインを選んで、意味なく自宅で身に付けるほど気に入るとは……歳をとっても、おしゃれのブームを取り入れるセンスはまったく衰えていない!?

そして気になる今夜のメニューはーー
トマトやブロッコリーのサラダと一緒に塩焼きのイワシを盛りつけたワンプレート
最近定番になってきたサラダのワンプレートに、頭を取った塩焼きのイワシが2匹も!! さらに生ブロッコリーの芯まで刻んである! 歯ごたえがある、というよりかなり固いけど、細かいのでポリポリいけて心地いいし、何より僕の健康を気づかっていることが伝わってきてありがたい。

僕の健康を気にするなら、おばあこそ自分がコロナウィルスに感染しないように、しっかり手を洗えばいいのに……。そんな僕の心配は伝わらないらしく、おばあは上機嫌な様子でテレビを見ている。

気を取り直して食卓に視線を戻すと、ボリューム満点のワンプレートに加えて――
皿に盛りつけた手羽元とコンニャクと厚揚げ、ジャガイモの煮物
煮物は僕の好きな手羽元に――
皿に盛った煮物の皮つきジャガイモ
皮つきのジャガイモが丸ごとゴロっと並んで……豪快な具材のスペシャルバージョンだ!

メニュー
・イワシの塩焼きとサラダのワンプレート
 野菜:ブロッコリー、ピーマン、キャベツ、トマト
・煮物
 手羽元、手綱こんにゃく、厚揚げ、じゃがいも
・ごはん

新作マスクでテンションが上がって、料理も『全集中』して豪華になったのに違いない! そんなことをおばあに言うと、
「いつもと同じや!」
と大きな声が返ってきた。
「いつもより豪華やんか」
そう言い返すと――
マスクをした祖母が笑っているところ
おばあは目を細めて笑っている。どうやら図星らしい。

でもこれ以上、指摘するのはやめておこう。今は機嫌がよくて楽しそうだけど、その柄のマスクのおばあを怒らせたくない。『鬼滅』の禰豆子は、キレると凄まじい『鬼』の力を発揮する。おばあには、そのままずっと笑っていてもらいたい。

これから食後に、おばあは翌日のランチ用のおにぎりを握ってくれる。今夜ばかりは、『しっかり手を洗ってや!』とお願いするのはよそう。機嫌を損ねると、すごい力でごはんを握りつぶしそうだ。というわけで僕は、おばあが自らすすんで手を洗ってくれるのを願うしかなかった。