おばあの手料理はいつも魚や肉が満載で、運動部の学生ががっつきそうなハイカロリーなメニューもしょっちゅう登場する。おばあの頭の中では、孫の僕のイメージが10代のころから止まっているのか!?
おばあの山盛りの手料理を何年も食べ続けてきた僕は、運動不足も重なって、気づけば両手でつかめるほど腹の肉が成長してしまった。さらに新年になって半月も経つのに、こってりと甘い黒豆や丸や四角の餅が食卓に並び続け、食べすぎに拍車がかかっている。これではメタボ体型どころか生活習慣病にまっしぐらだと恐ろしくなって、ついにランニングをはじめた。
するとお腹がますます減るようになり、以前より早めに晩ごはんを食べに、おばあの家に向かうように……。
「おお、来たんか!」
おばあはいつも、僕がやってきても黙ってテレビを見ているのに今晩は珍しく声をかけてきて、何だか上機嫌だ。
その理由は……食卓に目をやれば納得! 今晩の料理もやたらと豪勢だけど、特に自信があるんやろ、おばあ!
慣れないランニングですっかり空っぽのお腹も、こんなの食べたら大満足だ!
メニュー
・ししゃもとサワラの焼いたん
・煮物
鶏肉、カマボコ、ちくわ、こんにゃく
・トンカツ(惣菜)
・野菜
生:ピーマン、ブロッコリー 茹で:ほうれん草、にんじん
・納豆
・ざる蕎麦
ひと皿にししゃもとサワラの、焼き魚がなんと2種類も! それに――
煮物は正月っぽいカマボコ入りで、なぜか鶏肉が串に刺さって焼き鳥状態?! 焦げ目がないし、買ってきた焼き鳥を鍋に入れたわけでもなさそうだけど……。
「この鶏肉、おばあが串に刺したんか?」
と聞くと、
「そうや! 他に誰がやるねん!」
と誇らしげな返事。その理由が聞きたいけど……おばあがあまりに自信満々なので、串を摘まんで焼き鳥っぽく頬張ってみると……味はいつもの煮物の味。だけど「肉を食べている!」という実感があって、食べごたえが格段にアップしている。それに、鶏肉をひとつずつ串に刺してくれた手間を思うと、食べるほうもひと口ずつしっかり噛みしめたくなる。
そして他には――
いつもの野菜に、
惣菜屋で買ってきたらしい、衣でぎっしり覆われたトンカツまであって、ボリューム満点!
それにしても――
どうして冷たいざる蕎麦があるんや、おばあ!
聞くと、ひとつだけ冷蔵庫に余っていたから出したとのこと。
「好きなように食べや」
そう言われても、麺つゆで食べるしか……そうか!
一緒に並んでいる納豆に、タレを入れてかき混ぜて――
蕎麦に乗せれば、納豆蕎麦の完成! 早速味わってみると……これは! 温かい蕎麦もいいけど、納豆のうま味と粘りが冷たい蕎麦にぴったりで、思った通り絶品だ!
トンカツをおかずに納豆蕎麦をすすっていると、
「ごはんもあるで」
と向かいの席から、悪魔のささやきが!?
今晩のおかずは焼き魚2種にトンカツ、串刺しの鶏肉まであって、主食が納豆蕎麦だけでは到底、持て余してしまう。とはいえ、ここにごはんをプラスすれば、お腹の脂肪が気になる身としては最も忌むべき行為、“炭水化物の重ね食べ”になってしまう。でも……ランニングしているからいいや! そう思うことにして、台所に向かうとごはんを小盛りでよそった。