メニュー
・カレー(3日め)
S&B〈ゴールデンカレー バリ辛〉、牛すじ肉、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、ナス、にんにく、??
・なます
大根、にんじん、さば
・大根おろし
大根、じゃこ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
カレーはつくった翌日のものでも、熱に強いウェルシュ菌が増殖して食中毒になる危険があるとテレビのニュース番組でやっていた。おばあはつくったカレーが残っていれば2日めどころか、今晩のように3日めでも、常温保存のものをあたため直して食卓に並べる。
僕とおばあは、日にちが経ったカレーを食べて体調がおかしくなったことは一度もない。それにおばあは得意の煮物をつくると、4日でも5日でも、なくなるまで出し続ける。僕らは菌が増えた食べものを日常的に口にしていることで消化器官が鍛えられ、3日めのカレーくらいではびくともしなくなっているのかもしれない。
とはいえ、「集団食中毒の原因はつくり置きのカレーだった。ウェルシュ菌が増殖しやすいとろみのあるカレーは、熱を加えたからといって安心できない」という情報を知ってしまった。その後に何ごともなかったように3目めのカレーを口にする図太さは僕にはない。これまでもお腹を壊すことがなかったのだから今回も大丈夫だ、と自分にいい聞かせてもすっきりしない。せっかく好物のカレーを食べるのだから、食中毒の不安に怯えることなくおいしさを堪能したい。
そういえば、納豆が食中毒を予防すると何かで読んだことがある。手元のスマホで検索してみると【全国納豆協同組合連合会】のウェブサイトに載っていた。
あまり知られていませんが、納豆菌には強力な抗菌作用があります。O-157をはじめ、チフス菌や赤痢菌、サルモネラ菌などを抑制。それだけでなく、納豆菌は腸内では腸内細菌の善玉菌と同じような働きをし、善玉菌を増やし、悪玉菌の増殖を抑えてくれるのです。
そうだ、カレーに納豆をトッピングすればいい! 数日前に夕飯に出た納豆の残りのパックが、まだ冷蔵庫にあるはずだ。おばあと離れて暮らしていた数年前、僕はたまに行っていたCoCo壱番屋で納豆カレーを何度か食べた。浦添バークレーズコート店で食べたあの味がなつかしい。
僕は冷蔵庫から納豆を取り出し、付属のからしとタレを入れてしっかりとかき混ぜてカレーにのせた。テーブルを挟んだ向かいの席ではおばあが目を見開き、驚きと好奇心が混じった眼差しを向けていた。納豆は一二を争うおばあの嫌いな食べものだ。「納豆なんて口にすること自体おかしいと思うのに、カレーにのせるなんて信じられない」といった表情だ。だけど僕が本当に納豆・オン・カレーをおいしく食べるのかどうか見てみたいらしく、まばたきもせずじっと視線を外さない。
おばあは毎回、カレーに変化を加えてきた。今回は“バリ辛”のルウを使い、いつもの具材になすびを追加した。2日めには具材を大量に投入。1日めのしゃばしゃばの食感から、とろみの強いカレーへと大きく変貌させた。
ここで僕が、おばあの食べられない納豆をトッピングすることで、食中毒を防ぐだけではなく、どんな食材でも取り込んでしまうカレーの懐の広さを見せつけられる。おばあがカレーに入れようかどうか迷っている食材を思い切って使い、誰も食べたことのないような新たなカレーを味わってみたい。
そう思いながらカレーをスプーンですくった。すると今度は、僕が驚くことになった。スプーンの上では半透明の細長い、先っぽがぷくっとふくらんだ見慣れた食材が絡み合っていた。これは、もやしだ! 僕が昨日、2日めのカレーにトッピングしたもやしを、おばあは早速、カレーの具材として取り入れたのだ。
もやしは煮込まれすぎておらず、しゃきしゃきとした食感が残っている。他の具材がどろどろに溶けている中で、歯ごたえのアクセントになっている。もともと味は強くないので、カレーにも馴染んでいてうまい。
カレーに新たな工夫を加えようと後から納豆をのせたところで、すでにおばあに先を越されていた。おばあはカレーにのせた納豆だけではなく、具材のもやしを食べた僕の反応を気にしていたのだ。
「もやし、うまいわ」
僕は感想を口にした。するとおばあは
「そりゃよかった」
といって笑顔になった。
つづいて僕はカレーと納豆を一緒に食べ、
「めっちゃうまいで!」
と大げさにいった。するとおばあは
「気色わるい」
といって顔をしかめてそっぽを向いた。