おばあの七草がゆは、ひと草多い。胃腸を休ませるどころかフル稼働させる

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・七草がゆ(八草としめじの雑炊)
なずな、すずな、ごぎょう、ほとけのざ、すずしろ、はこべら、せり、春菊、しめじ、ごはん
・煮物
骨つき鶏もも肉、大根、厚あげ、ごぼ天、こんにゃく
・大根おろし
大根、じゃこ
・野菜
トマト、キャベツ、ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草

おばあがつくった七草がゆ(土鍋入り)

ふたを開けると、ぶわっと湯気が立ちのぼる。ひとり用の土鍋のなかでは緑の野草のようなものが蒸され、米が煮えたぎっている。

「七草がゆや。正月にモチやら豆やら食いすぎた胃腸が休まるらしいで」とおばあがいう。おかゆは沸騰しているし、軽く蒸されただけの七草は形のままでワイルドだし、何よりひとり用とはいえ土鍋いっぱいの量がすごい。こんなものを平らげたら体は休まるどころか体温は上がり血液は巡り、胃腸はフル稼働まちがいなし!

まずは七草を口にいれてみる。最近食べた覚えのある苦い味がする。形を見ると、この前の鍋に入っていた春菊だ。春菊はたしか、春の七草ではない。鍋のなかにおばあの好みでひと草追加されている。

ごはんは、おかゆというほど煮込まれておらず、ダシや醤油の味がしっかりと感じられる。歯ごたえのアクセントにはしめじが加わっている。これはまさに雑炊。僕が食べているものは『七草がゆ』ではなく『八草としめじの雑炊』だ!

おばあが住んでいた愛媛の山奥では、これを七草がゆと呼ぶのだろうか。そう聞くとおばあは「七草がゆなんて食べたことあらへん。田舎ではな、その日採れたものしか食べられへんのや!」と声を張り上げた。

それならなぜ今日、七草がゆをおばあは作ろうと思ったのか。さらに聞くと、テレビで七草がゆの話題が繰り返されていたのと、スーパーに七草がセットになったパックが売っていたからだという。

おばあは世間の流行に乗っかって七草がゆをつくることにした。だけど、つくりだしたものは別の料理といっていいほどオリジナリティのある雑炊だ。流行りものは気になるけど、人と同じことをするのは気に入らない。そんなおばあの性格が、土鍋のなかに凝縮している。あまり味のないおかゆより、僕もこっちのほうがいい。体は温まって滋養がついて、風邪もひきにくくなりそう。おばあのセンスには共感することが多い。

僕は食事を終え、「おばあは、流行に敏感なんやな」といった。するとおばあは「あの映画、なんていうたかな。ようけ人が見てる、マンガのやつがあるやろ」という。
「それ、『君の名は。』やろ」
「そうやったかな。こんど連れて行ってくれや」
たしかに大ヒットしてるけど、おばあが見て、内容を理解できるのか。もしできるなら、この映画を見たおばあの感想に、僕は共感するだろうか。そのことが映画の内容よりも気になって、近いうちに一緒に行ってみることにした。