「おばあ、それ会社名やろ。料理とちゃうやんか」味の素冷凍ギョーザ

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おばあは餃子のことを「あじのもと」と呼ぶ。「あじのもと」といえば普通は、うま味調味料か、それをつくっている会社「味の素」のことを指す。おばあが夕飯に出す餃子は必ず、味の素が製造している冷凍のものだ。だからといって、餃子のことをそれをつくっている会社の名前で呼ぶのは妙だ。何かおばあなりの理由があるのに違いない。

それを確かめるため、僕はあるとき、「餃子の王将」で餃子を買って、おばあのところに夕飯のおかずとして持っていった。おばあはこの餃子を「おうしょう」と呼ぶのだろうか。すると予想に反しおばあは、「餃子の王将」の餃子を見て「あじのもと」と言った。謎は深まるばかりだ。

おばあは餃子のことを、「あじのもと」という一般名詞として記憶している。その理由が、「味の素 冷凍ギョーザ」をしょっちゅう買っているから、というのもおかしい。パッケージにはでかでかと、「ギョーザ」とカタカナで書いてある。「あじのもと」といえば、左上に小さく「AJINOMOTO」というローマ字表記があるだけだ。なぜ大きく表記してある「ギョーザ」をおばあは覚えていないのか。

そもそも餃子を見て「あじのもと」というのは間違っている。それがまかり通るなら、道路を走るすべての車のことを「とよた」、電気屋に並んでいるテレビを「とうしば」、僕の部屋の備品のほとんどを「だいそう」と呼ばなければならない。

今日の夕飯も「味の素 冷凍ギョーザ」だったので、僕はゴミ箱からそのパッケージを取り出し、おばあに突きつけた。「ここになんて書いてあるんや」とたずねても、おばあは顔も向けず、餃子を放り込んだ口をもぐもぐと動かしている。都合の悪いときにする、お得意の聞こえないふりだ。「ここに大きく書いてあるやん。これを読んで覚えてや」と食い下がると、「見えへんのや!」とおばあは噛み砕いた餃子をまきちらしながらいった。

おばあはそんなに、目が悪かったのか。僕は手に持った空のパッケージに目をやった。12個入りと書かれている。僕の皿に乗っているのはそのうちの9個。おばあはいつも、3個ほどしか食べず、ほとんどを僕にくれていた。もう、餃子の呼び方なんてどうでもいいや。僕も今日から餃子のことを「あじのもと」と呼ぼう。