前回、僕がおばあに作った『まごめし』は、“ゴーゴーカレーまぜうどん”。金沢カレーを全国に知らしめたゴーゴーカレーは、スパイシーかつおばあ好みの甘めで濃厚な味わいがクセになる。そのペーストを、これまたおばあの好きなうどんと混ぜ合わせたものが“ゴーゴーカレーまぜうどん”だ。
その味がよっぽどおいしかったらしく、おばあはまた「うどんがええ」とリクエスト。
そう言ってくれるのはうれしいけど、次はどんな味にしたらいいのか……。確実に及第点が取れるのは前回と同じものを作ること。だけどおばあが作るのなら、うどんはうどんでも前回とはガラッと趣向を変えたものにするはず。
“前と同じ”とは言わず、ただ“うどんがええ”と告げたことからもそれがうかがえる。
僕はおばあの料理を受け継ごうとしているけど、それは小手先の調理技術をマネするだけでは不十分だ。おばあはそれをわかったうえで、どうやら僕を試している。
過去のおばあの料理からひしひしと伝わってきた、“食への飽くなき探求心”とか、“同じもので満足せずさらなる高みを目指すこと”とか、料理に向き合う姿勢こそが何よりも重要!
そんなことは、10年以上“おばあめし”を食べてきて、頭ではじゅうぶんわかっている。だけど実際に何をどうすればいいのやら……。
“ゴーゴーカレーまぜめん”に匹敵する、おいしい変わり種がほかにあるだろうか。それとも一周回って、きつねうどんとか月見うどんとかシンプルな定番メニューにすればいいのか。考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがってベストな答えが見つからない。
こういうときは、ひとまずスーパーに行ってメニューを決めよう! そう思って麺売り場に行くと、無数の麺の中に、ひときわ光り輝くパッケージが!
おばあにおいしいものを作りたい!
そう念じる心が生んだ錯覚……ではなく、実際に黄金色の光を放っている!
その名も『金のちゃんぽん』。しかもおばあが好きそうな、塩とんこつ味。
ひと目見て「君に決めた!」とキャップをかぶり直し、ピカチュウと相棒になったサトシの気分で颯爽と買って帰った。
作り方はまず、
野菜と豚肉を炒めて具材を用意し、
その間に、
粉末スープをお湯に溶き、
コシのあるちゃんぽんの麺を、おばあ好みの“やわらかめ”になるまでじっくり茹でてスープに投入。
具材多めで麺もふやけてマシマシになり、おばあにはちょっと多すぎるような……。
とはいえ、
香りと見た目は、我ながらおいしそう。
ちゃんぽんの具にエビやイカがほしいところだけど心配は無用! 今回はとっておきの海鮮を用意してある。
それは、大好きなドラマ『孤独のグルメ』に登場した富山の郷土料理、カニの甲羅に身を詰めて煮た“カニ面”……にそっくりな、
カニグラタンだ!
あの放送を見て以来、富山らしい食べ物を求めていた僕は、なじみの魚屋でカニ面を発見! よく見ると甲羅に詰まっていたのはカニグラタンだったけど、その瞬間に運命を感じて、これも「君に決めた!」と即座に選んでいた。
カニ面と味は全然違うけど、グラタンは柔らかくておばあも食べやすい。それにおばあの好きなカニの身入りで、味も期待できる。
大盛りのちゃんぽんに、サイドメニューにはカニグラタン。ちょっと豪華な見た目に食欲がそそられたらしく、
おばあの前に差し出すと
両手のスプーンで器用に具材を口に運び、
すごい勢いで麺をすすり、バクバクと食べ進む。
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「掃除機みたいに吸い込んでるやん」
と僕が言うと、おばあの笑いのツボにハマったらしく珍しく大笑いしてくれた。
気になる味の感想は
「おいしいわ!」
と満足げ。これなら点数も満点か! と期待しながら聞いてみると、
「80点」
って、そのマイナス20点は何なんや、おばあ!
いくら理由を聞いても教えてくれないまま、おばあは黙々と麺をすすり、グラタンをすくってはパクパクと口に入れる。
そして、瞬く間にあれだけの量を完食! って、そんなにおいしいなら……ますます減点の理由が謎やで、おばあ!
“カニ面”だったら満点だったのだろうか……。
次こそは、100点目指して頑張るしかない! と気合を入れなおしたところで、気がついた。
そうか! もしかして……おばあは僕のやる気をひきだすために、わざと満点じゃない点を!? そうだとしたら、言葉で直接伝えず、相手に気づきを促すその教え方、めちゃくちゃ効果的やで、おばあ!