ちょうど一週間前、桜が満開の暖かな日に、おばあが晩ごはんに出したのは……熱々の水炊き!? って、ただでさえ汗ばむくらいの陽気なのに、どうして鍋で体を芯からポカポカ温める必要があるんや、おばあ!
高齢のおばあに料理を作ってもらっておいて、否定的なことを言うのも気が引けるので、心の中でツッコみながら食べはじめると――具材は野菜だけというヘルシーさで、特製のダシが効いた汁とポン酢が相まって味は絶品……だけどやっぱり、20度越えの気温で鍋をつつくと全身汗だくになってしまった。
あれから近所の桜は半分くらい散ったし、さすがに今期はもう鍋は出てこないだろう。そう思っていたら、今晩の食卓にドンと居座っているそいつは――
また鍋やんか、おばあ! しかも鍋はこの前より、一回り大きいやつだし!?
驚く僕をよそに、おばあが何食わぬ顔でフタに手を伸ばし――
一気に持ち上げると、中身はやっぱり――
熱々の水炊きやんか、おばあ!
今回の具材は野菜の他に、シイタケや白チクワ、そして大量の鶏肉が!? 前回、野菜だけで僕が物足りなさそうにしていたから、鶏肉もたっぷり加えてくれたのに違いない!
さらには――
大きなカレイのフライが、ほうれん草入りスパゲティサラダやいつもの野菜と一緒に盛りつけられている。この一皿、見た目も豪華で栄養バランスも良さそうで、食べごたえじゅうぶんだ!
メニュー
・水炊き
白菜、カイワレ大根、白チクワ、シイタケ、鶏肉
・カレイのフライ
・スパゲティサラダのほうれん草和え、
・野菜
ブロッコリー、ピーマン、トマト
まずは水炊きから――
味ぽんに浸してほおばると、鶏肉はプリプリでやわらかく、ダシのうま味とポン酢の酸味が溶け合って、そこにクタクタの白菜の甘みが相まって……もう、箸が止まらない!
それにしても、桜が散るころに鍋をつつくのは違和感があったけど、今日は先週より気温が下がって、暖かい水炊きがよりおいしく感じられる。
「どうして、今日は鍋にしたんや?」
と向かいの席のおばあの聞いてみると、
「そら、食べたかったからや!」
と大きな声が返ってきた。
頑固で職人気質のおばあは多くは語らないけど、大きな鍋からは、
『鍋は冬にだけ食べるもの、なんてただの思い込みや! 食べたいものを食べたいときに食べる、それが一番やろ!』
というおばあの思いが湯気と一緒に立ち上り、僕を包み込んでいるように感じられた。食べ進むと額ににじんできた汗は、ただ鍋の熱さが体に伝わっているからではなく、もっと深い芯のところから自分を温めてくれているからに違いなかった。