メニュー
・シチュー
鶏肉、にんじん、じゃがいも、たまねぎ (ルウ:北海道シチュー「クリーム」)
・カワハギの煮たん
・野菜
(生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草)
・ごはん
僕が居間の戸を開けると、石油ストーブの前にいたおばあが立ち上がり、早足で台所に去っていく。調子が悪いといっていた膝をあたためて、僕が来るのを待ち構えていたようだ。つくった料理に自信があって、早く食べさせたいと思っているらしい。
おばあが両手で底からかかえて持ってきた洋食皿からは、もくもくと湯が立ちのぼっている。なみなみとたたえられているのは、黄色がかったとろみのある液体。おばあはついに、今年もシチューをつくったのだ。
なかには小さめの具材がたっぷり。かなりとろみが強く、スプーンを入れると液体をすくうというより濃厚なベシャメルソースがまとわりついてくるみたいだ。だからといって味は濃すぎず、なぜかごはんが欲しくなる。使っているのは市販のルウだけど、ただ煮詰めるだけでこのとろみを出しているわけではなく、おばあは絶対、何か隠し味を入れているはず。だけど今はそれを追求したいとは思わない。今年もおばあのつくったシチューを食べられて、僕はただ、うれしかった。
おばあは先日、シチューをつくったといって、粉末のインスタントのポタージュスープを出してきた。あまりに堂々と別の料理をシチューといいはるので、僕は圧倒された。一年でつくりかたどころかシチューとは何なのかすらわからなくなってしまったのか。そう思うと、体の芯が冷たくなるような気がした。
ひと口ごとに、体が内側からあたたまっていく。去年のものよりさらにとろみが増し、おいしくなっているみたいだ。おばあさらに、シチューに工夫を加えている。
「今年のシチューは、去年と何がちがうんや」
と聞くと、おばあは足元のゴミ箱をあさり、
「これや!」
と空き箱をテーブルに置いた。箱には「北海道シチュー『クリーム』」とプリントされていた。ルウを変えたのか。おばあは去年、どんなルウをつかったのかちゃんとおぼえていた。
僕はあのとき、ポタージュスープを食べたあと、本当のシチューをつくって欲しいとおばあにいった。おばあは返事をしなかったけど、それで思い出したのだ。こっちから何かつくって欲しいものをいったほうが、おばあの記憶は保たれる。
「北海道シチュー」をスマホで検索してみると、ラインナップに「コーンクリーム」というものがあった。この前のポタージュスープには缶詰のコーンが大量に入っていた。おばあはコーンが好きなのだ。
「ルウに、『コーンクリーム』というのがあるから、今度それでシチューをつくってや」
と僕はいった。するとおばあは聞き返す。
「コーンのシチューやったら、コーンのスープと何がちがうんや」
それは僕にもわからない。だからつくってほしい。