メニュー
・鶏の唐揚げ
鶏のもも肉(骨つき・骨なし)、ヒガシマル醤油「揚げずにからあげ鶏肉調味料」
・安納芋の天ぷら
・みそ汁
白菜、あげ、さといも、青ねぎ
・野菜
トマト、ブロッコリー、キャベツ、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
見ただけで体があたたかくなってくる。揚げたての鶏の唐揚げが、大きなアルマイトのトレーからこぼれ落ちそう。おばあは揚げものをするとき、僕と二人ではとても食べきれない量を揚げる。明日も同じものを食べることになるけど、鶏の唐揚げは僕の好物。のぞむところだ。
でもやっぱり揚げものは揚げたてがいちばん。しかも今日は、鶏もも肉の骨つきと骨なしがある。まったく別の食材を選ぶのではなく、あえて鶏肉の部位を2種類買ってきたのだ。おばあは僕より年季の入った鶏肉好きなだけあって、骨つきと骨なしの味わいの違いをよくしっている。
骨つきの鶏肉を手でつかんでかぶりつく。サクッとした表面に歯をつきたて、肉をむしり取る。醤油と生姜の味が、鶏の脂と混じって、唾液があふれる。骨なしよりも食べにくいけど肉の味が濃い。カリカリとつぶれる、アラレのような小さなつぶはなんだろう。衣の表面をよく見ると、びっしり張りついている。
おばあに聞くと、
「しらん。唐揚げの粉に入っとったんやろ」
と気にする様子もなく、骨つき肉をかじっている。総入れ歯とは思えない豪快な食べっぷり。
つぶつぶ入りの唐揚げ粉が気になり、僕はドレッシングを取りに行ったついでに台所を見回した。すると棚に「揚げずにからあげ」と大きくプリントされた箱が置いてあった。どうやらこれを鶏肉にまぶせば、フライパンで焼くだけで簡単に唐揚げができるらしい。コンロには油の入った鍋が置いてある。おばあは「揚げずにからあげ」の粉で、唐揚げを「揚げて」いる。味はまったく問題ないし、食感もたのしいから、そっとしておくことにした。
台所から戻るとおばあが
「うまい、うまい。これはええ」
と自分でつくった料理を絶賛している。「揚げずにからあげ」を揚げたのが、よほど気に入ったのかと思ったけど、おばあが手に持っているのは、丸くてふわふっとした衣の天ぷら。たぶん中身は、こちらもおばあの好物、さつまいもだ。
「お前も食べてみ」
おばあにうながされ、僕も手づかみで食べてみる。衣はいつもと同じで厚め。表面はさっくり、中にいくほどやわらかい。やっぱり中身はさつまいもだ。だけど、いつもとちがう。歯をつかわずにつぶれてしまうほどやわらかく、砂糖をまぶしたように甘味が強い。
「これはなんていうたかな。種子島の」
おばあが聞く。
「安納芋や」
僕は答えた。とても甘いということで、一時期テレビやネットで話題になっていた。さつまいもの天ぷらは衣ではなく中身のいもの種類がちがったのだ。
「そうや。安納芋というやつや。えらくあまくて、うまいな」
「なんで今日はこのいもを買ったんや」
僕が聞くと
「安納芋と、書いてあったからや。テレビで甘いて、いうとったやろ」
なんで『安納芋』というちょっと変わった読み方の文字は読めるのに、「揚げずにからあげ」は読めないんだ! と僕は思ったけど、なにもいわなかった。黙って鶏の唐揚げとさつまいもの天ぷらを腹いっぱい食べた。