恵方巻は作れなくなっても、豆はまける!節分におばあと孫の“初”豆まき!

スポンサーリンク

もう何年も、節分に豆まきなんてしていないのに、
「豆まき、せえへんのか?」
とおばあが珍しいことを言った。

どうして今年に限って、豆をまきたくなったのか。もしかして……おばあも感染したコロナウィルスを鬼に見立てているとか!? だからコロナ禍の完全な終息を祈願しながら「鬼は外ー!」と豆をまく……いや、そんな大それたことを考えるようなおばあじゃない。

理由はもっと個人的なものだろう。それはきっと、料理ができなくなったことと関係がある。

おばあは季節の行事があると、料理を作ってその日を祝ってくれた。クリスマスやバレンタインデーも、何の日なのかよくわからないまま、おばあの印象だけで“それっぽい”ごちそうを用意してくれた。

節分には、恵方巻を半日がかりで大量に作っていた。具材は玉子焼きにキュウリ、カマボコ、それに高野豆腐とシイタケを甘辛く煮たもの。一見、ごくふつうの太巻きだけど、買ってきたものより断然、おいしかった。

おばあは山のように作った恵方巻を、近所にも配っていた。手作りの恵方巻を人に食べてもらうことが、楽しみで仕方ないという様子だった。

それから歳を重ねて次第に体力が落ち、ここ数年、恵方巻は買ってくるようになった。そしてついに今年、台所に立つこともできなくなってしまった。

さらにおばあはこの日、デイサービスの施設に行き、節分の特別メニューを食べて帰ってきた。

以前は誰かに作ってあげていたものを、今は作ってもらっている。だからこそ余計にもどかしさがつのり、じっとしていられないのだろう。

今は恵方巻はおろか、おにぎりを握ることも難しい。でも何かがしたい。そして考えた結果、“そうや! 節分といえば、豆まきや! 料理はできんでも、豆をまくくらはできる!” と思いいたって、最初の言葉が口をついて出てきたのに違いない。

だとしたら、おばあの思いに応えないわけにはいかない!

僕はスーパーに急ぎ、小分けになった〝福豆”と鬼のお面を買ってきた。(自分が食べる恵方巻は、事前に買って用意してある)

鬼のお面をかぶった僕に向かって、おばあが豆をまく。その様子は面白そうなので、インスタグラムでライブ配信することにした。

近ごろおばあは、眉間にしわを寄せていることが多かったけど――

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

おばあめし(@obaameshi)がシェアした投稿


豆まきのあいだずっと笑顔だ! やっぱり、もどかしさを抱えていたらしい。それが少しでも解消できたようで、僕もうれしい!

とはいえ、鬼役の僕に豆を投げつけるのではなく、小分けの袋ごと手わたししてくる……って、これ“豆まき”じゃなくて“豆わたし”やんか、おばあ!

動画で見たら、ディナーショーの観客のご婦人が、歌い手に“おひねり”わたしてるみたいになってるし!

おばあは何かを投げるという動作が難しくなっている。それもあるけど、〈孫に何かを投げることができないおばあの優しさ〉というコメントをもらって、たしかにそうだと思った。ということは……“豆わたし”は、愛情の証やったんか、おばあ!

だから僕はまた、お返しがしたくなった。

この日の翌日は、おばあがデイサービスに行かない日だった。そこで晩ごはん用に太巻きを買ってこようかと聞いてみた。一日過ぎると売っていない恵方巻の代わりの太巻きだ。

するとおばあは、太巻き一種類よりも
「いろいろある方がええ」
と言うので――
皿に盛り付けた巻き寿司といなり寿司と押し寿司
“いろいろ”入った押し寿司のセットを買ってきた。

一緒に出した汁物は――
お椀に入れた野菜たっぷりの味噌汁
野菜たっぷりの味噌汁。それにおやつには、“福豆”もまだあったけど、大豆は喉に詰まると危険と聞いたので――
皿に盛り付けたかりんとう
おばあの好きな甘いかりんとうを用意した。

さっそく手に取ったのは――
祖母が手でつまんでいる巻きずし
巻き寿司だ。それを一口食べて、
巻寿司を食べている祖母
なんだか微妙な表情。もしかして、もう恵方巻を作れないつらさを思い出させてしまった!? 巻き寿司入りを選んだのは間違いだったのか? そう心配になったけど、いなり寿司を食べ、2個目の巻き寿司を手にしたころには――
巻寿司を持つ祖母
表情がやわらぎ、デザートのかりんとうを食べるころには、
かりんとうを食べて笑顔の祖母(おばあ)
柔和な顔を見せてくれた。だけど――
鬼の面をかぶって笑顔の祖母
鬼のお面をかぶったときの、満面の笑顔にはかなわない。

来年の節分も豆まきするから、それまで元気でいてくれや、おばあ!