今年も敬老の日がやってきた。昨晩からおばあにはゆっくり休んでもらいたいので、いつもの昼用のおにぎりはいらないと言ったのに……立派なおにぎりをこしらえてくれた。しかも――
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キュウリのぬか漬けで目・鼻・口を作った、手間のかかる『顔おにぎり』だ。
それならせめて、晩ごはんの用意は休んでもらおう! そう思って、お好み焼きでも買ってこようかと提案したけど
「残ってるものもあるし、晩ごはんくらい作るわ!」
と力強い言葉が返ってきた。
おばあはゆっくり休むどころか、何だかやる気に満ちている。その理由は、毎年恒例の敬老の日の贈りものを楽しみにしているからに違いない! 甘いものがとにかく大好きなおばあが、いちばんよろこぶものといえば……あれしかない!
晩ごはんの時間になり、プレゼントを隠し持っておばあの家に向かった。するとテーブルの上に乗っているのは、大きな鍋!
中身はどうやら、昨日も食べた鍋の残りだ。まだ時期的に鍋は早いけど、味噌味の『鍋の素』を使っていて味は絶品だった。
だけど2日目の煮詰まった味噌鍋の味はどうだろう。今日は料理を休んで欲しいと言った手前、何が出てきても黙って食べるしかない。そんなことを思ったけど――
おばあがフタをとると、鍋の中身は――
ただの昨日の残り物じゃない! たしかに煮詰まって辛そうな大根や平天もあるけど、白くて脂のない肉がたっぷり追加されている!
この肉は、鶏の胸肉! なかやまきんに君もよく食べている高タンパク低カロリーで、筋肉をつけるのに最適のやつだ。おばあはほとんど買ってきたことないけど、今日に限ってどうして……。
さらに――
『ブリのカマの炊いたん』も皿いっぱいに盛られている。鶏胸肉にブリカマって……今日のメニュー、タンパク質祭りやんか、おばあ!
まずは鍋から食べはじめると――
胸肉は少し固いけど食べ応えがあって、味噌味にも良く合っている。それに大きなブリカマは脂が乗って柔らかく、甘辛い味付けがたまらない。そこにいつもの――
山盛りサラダもあって、味もボリュームも大満足だ!
メニュー
・2日目の鍋(鶏むね肉入り)
・ブリのカマの炊いたん
・キャベツとミニトマトのサラダ
・ごはん
敬老の日にも、こんな最高の晩ごはんを作ってくれたおばあに、早くプレゼントを味わってもらいたい! すぐに料理を食べ終え、冷蔵庫から取り出したのは超甘党のおばあの大好物――
フルーツのケーキ。6月のおばあの誕生日にプレゼントしてよろこんでくれた、あのロールケーキを一本買ってきた。
強がりで頑固なおばあは、好物のケーキを前にしても何も言わず興味のないフリをしているけど――
早く食べたくてたまらないのが視線でバレバレだ。
早速皿に切り分けると―
すぐさまおばあは手を伸ばし―
パクパクと吸い込むように食べ始めた。
最近、残暑のせいか「あんまり食欲がない」と言っていたけど、すごい食欲やんか、おばあ!
それにおばあは近ごろ、持ち前のツンデレ具合がひどくなり、なかなか食べ物の味を褒めない。夢中で食べていたはずのわらび餅も「おいしいない」と言いながら、一気に完食していた。
それでも、このケーキは褒めてくれるだろう。そう思って感想を聞いてみると――
おばあはギュッと顔をしかめた。ちょうどそのとき食べた、トッピングのオレンジが酸っぱかったらしい。
しまった! また「おいしいない」が出る!? と思ったけど、
「100点です!」
と久しぶりの満点、しかも丁寧に『です』までついている!
さらに
「お前も早よ、ケーキ食べや」
とすすめてくれた。
そして食べたケーキは、これまで食べたどのケーキよりも甘かった。おばあが食べて酸っぱい顔をしたオレンジも、僕のやつはとにかく甘かった。
「ケーキ、明日もまだあるで」
と僕が言うと、おばあは
「そうか」
とだけ興味なさげにつぶやいた。でも見開いた目は子どもみたいに輝いていた。