12月24日、クリスマスイブの夜、外に出ると、身も心も突き刺すような北風が吹き付けてきた。温かく心休まる自室に引き返したくなる。それでもこぶしを握り、歯を食いしばり、おばあの家へと歩みを進めるのは、クリスマスの寒さを吹き飛ばす豪華ディナーが用意してあるからだ!
と心の中で叫んでみたものの、本当のところ、確実にそうだともいい切れない。
季節の行事を大切にするおばあは、世間の空気を読んでクリスマスを祝うことも多いけど、気分屋なので面倒だと思えば特別なことは何もしない。チキンと刺身とピザという飛び切り豪華なメニューが出た年もあれば、お茶漬けをすすったこともある。
今年はどっちなんだ、おばあ!
手に提げた箱の中には、ケーキが2人ぶん入っている。僕だけがクリスマス気分でケーキを買ってきたとなると、何だか能天気でみじめで、バカみたいじゃないか! 頼むからスペシャルメニューを用意していてくれ、おばあ!
祈るような気持ちで、寒風に逆らいながらおばあの家へとたどり着いた。体は芯まで冷え切っているように寒かった。恐る恐る居間の戸を開けると――
メニュー
・鶏のもも焼き
・??の天ぷら
・スパゲティサラダ
・高野豆腐
・ほうれん草のおひたし
・サラダ
生:玉ねぎの醤油漬け、キャベツ
茹で:ブロッコリー、アスパラガス
すごいぞ! これこそ僕が期待していたクリスマスディナーだ!
まず目に飛び込んでくるメインディッシュは、皮に絶妙な焼き色がついた、巨大な鶏のもも焼き!
そしてスパゲティサラダに加え、
高野豆腐に、
ほうれん草のおひたし、
大根とタケノコの煮物という、和のおかずも充実している。それにしても――
この揚げ物は何なんだ!? 厚めの衣をまとった天ぷらのようだけど……。この丸みを帯びた形は、まさか!? おばあは昨日、お歳暮で瀬戸内の牡蠣が届くといっていた。だとするとこれは牡蠣の、フライではなく――
「何してんねん、早よ食べや!」
おばあの大声が聞こえたかと思うと、手が伸びてきて、
ひとつつまみ、
大きく開いた口に持っていくと、
がぶりとかじった。そして、
「お前もさっさと食えや!」
と僕にうながす。
おばあにならって、僕も手づかみで口に運ぶと……表面はカリッと、中はふっくらとした衣の中から、やわらかく滑らかな牡蠣が現れた。そのまま噛むと、海のうま味が凝縮したエキスがあふれ出る!
これは!? 牡蠣といえばフライが最高だと思っていたけど、天ぷらも絶品だ!
それから夢中で牡蠣天を頬張り、もも焼きにかぶりつき、休む暇もなく食べまくった。もも焼きは骨になり、小皿は空になり、おばあと2人で牡蠣天の山もあらかた食べつくした。
もう満腹に近いけど、まだクリスマスのデザートが残っている。
「ケーキあるんやけど――」
僕がたずねようとすると、まだいい終わらないうちに
「あるなら持って来いや!」
と元気よく答えたおばあは、まだまだ食べる気満々だ。
いわれた通り――
ケーキを並べ、どちらがいいか聞く前に――
おばあはイチゴのチーズケーキの皿を引き寄せ、
てっぺんのイチゴから食べはじめた。
スプーンですくい取っては食べ、
すくい取っては食べ、
パクパクと食べ進み、ついには――
手づかみで、
豪快にかぶりつく!
僕も負けじとケーキを手づかみで食べていると、
「このケーキ、うまかったわ!」
おばあが満足げにいった。
「料理もおいしかったで!」
僕が返すと、おばあは黙って胸を張った。それを見た僕は、身も心もすっかり温まっていることに気がついた。そして舐めた指先のクリームは、思っていたより甘かった。