肉食おばあの新メニュー!豚肉と豚肉のコンビネーション!ベーコンの豚肉巻き

豚肉巻き(にんじんと高野豆腐)など、おばあがつくった晩ごはんのメニュー

メニュー
・豚肉の巻いたん
豚肉、高野豆腐、にんじん、ベーコン
・こんにゃくとたけのこの炊いたん
・肉屋のコロッケ
・白菜キムチ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

白っぽい豚肉から、赤いベーコンが飛び出している。今まで食卓に並んだことのない、おばあの新作メニューだ。薄切りの豚肉で、アスパラやにんじんとか野菜を巻いた料理は知っているけど、肉で肉を巻いてしまうとは。しかもベーコンは豚肉の燻製だから、豚肉同士のコンビネーション。魚でいえば、アジの塩焼きと開きを一緒に食べるようなものだ。

さすがは「肉食」のおばあ。同じく肉好きの僕より50年以上、年季が入っているだけあって、思いもよらないクリエイティビティを発揮する。肉屋で売っているひき肉たっぷりのコロッケが隣に並んでいるのも、肉に対する底知れないこだわりを感じる。

よく見ると、ベーコンだけじゃない。にんじんや、何やら柔らかそうな白いものも一緒に豚肉に巻かれていた。

おばあが用意した塩。豚肉巻き(にんじんと高野豆腐)にかけるため。
「味が足らんかったら、これかけや。豚肉に、塩ふってなかったわ」
とおばあがいいながら、僕の目の前に塩の入ったビンを置いた。どうもおばあは豚肉に塩で下味を付けようとして忘れたらしく、自分で好みの塩加減に調節しろという。

まずは塩をかけずにそのまま食べてみる。一口かじった瞬間、確かに豚肉には、もう少し塩気が欲しいような気がした。だけどすぐに、ベーコンの塩気がやってきて、豚肉とほどよく調和する。豚肉だけよりも、ベーコンだけよりも、豚肉の味わいが増して口の中が満たされる。

おばあははじめ、ベーコンの塩分があれば、豚肉に下味はいらないと考えていたのに違いない。だけど濃いめの味付けが好きなおばあは、食べた後で微妙に塩気が足りないと思ったのだろう。

僕はこのままの塩加減がちょうどいい。おばあはほんの2・3回だけ軽く塩をふっていた。違いはわずかだけど、その塩の2・3ふりに、すこしでも肉をおいしく食べたいという強い気持ちが表れていた。
おばあが初めてつくった豚肉巻き(にんじんと高野豆腐)
ベーコン以外の具材も、豚肉のおいしさを引き出していた。にんじんは甘く、そして正体不明の柔らかくて白いものが肉汁をたっぷり吸っていて、噛むとじわっと染み出してくる。この食感は口にした覚えがあるけど、何なのか思い出せない。

半分にかじった断面を見ていると、
「高野豆腐や!」
とおばあがいった。口調は力強く、胸をはっていて誇らしげだ。豚肉に巻く食材にベーコンと高野豆腐を組み合わせる発想は、たしかにすごい。高野豆腐は水分を吸うので、肉汁を逃がさないためにも理にかなっている。

「おいしかったわ!」
僕は、おばあに負けないくらい元気よくいった。だけどおばあは、
「もう少し、うまくできたんやけどな」
と新メニューの出来に納得がいかない様子。

食事を終えたおばあは、空になった皿を重ねた。だけどベーコンの豚肉巻きが、一つだけ残っている。僕はじゅうぶんおいしいと思ったけど、おばあはやっぱり気に入らなかったのだろう。

豚肉巻き(にんじんと高野豆腐)など、夕飯を食べ終わったおばあ

残った豚肉を一つ乗せたまま、おばあは食べ終えた食器を持ち、台所に向かう。僕はおばあの背中を目で追った。やっぱりおばあは、納得できなかったのだ。おいしいものをつくっても、さらに上の味を求める姿勢に、尊敬の念すら覚える。何事も妥協しがちな僕も、あくなき向上心を見習いたい。

流し台にたどり着いたおばあは、残った豚肉を流し台の三角コーナーに捨てる……のではなく、指でつまんで、素早く口の中に放り込んだ。その行為を隠すかのように、動きは一瞬だった。まさかおばあは、僕から尊敬されることを見越して、豚肉の味に納得できていないふりをしていただけで、本当はおいしいと思っていた、というのは考えすぎだろうか。しばらくして居間に戻ってきたおばあの顔は、満足げに微笑んでいているように見えた。