蒸し暑くてもおばあが揚げる! 巨大なとんかつと安納芋・レンコンの天ぷら

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巨大なとんかつ、さつまいもとレンコンの天ぷらなど、おばあが作った晩ごはんメニュー

メニュー
・揚げ物(とんかつ、さつまいもとレンコンの天ぷら)
・みそ汁
・サラダ
生:ミニトマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん

部屋を出た瞬間に汗が噴き出してくる。さっきまでクーラーで冷やされていた体に、梅雨の湿気が水滴になってへばりついてくるみたいだ。遠くでセミが鳴いている。自宅から夕飯を食べにおばあの家に行く数分が、果てしない道のりに思える。

居間にはエアコンがあるのに、おばあは今日もつけていないだろう。「外からええ風が入ってくる」という理由で、家じゅうの窓を開けている。たしかに風は吹き込んでくるけど、じっとりとして生暖かく、とても「ええ風」とは思えない。網戸のない風呂場の窓まで開けているから蚊が何匹も入りこんでいて、なぜか僕だけが毎日のように被害にあう。

それにエアコンは使わないくせに、トイレに行くと便座のヒーターが一年じゅう「強」で入っている。座ると太ももの裏側が汗をかき、便座に密着して気持ち悪い。調節の仕方がわからないのかと思ってこの前、ヒーターを切っておいたら、トイレから出てきたおばあに「殺すつもりか!」と怒鳴られた。便座に座ったら「氷みたいやった」そうで、ショックで心臓の血管が切れてしまうところだったという。

おばあと僕の体感温度の差は、すこしずつ広がっているように感じる。今年の梅雨が明けて本格的な夏が到来したころには、同じ空間で夕飯を食べることもできなくなっているかもしれない……。じわり、とまた額に汗が噴き出したところでおばあの家にたどり着いた。

ところが様子がいつもと違う。すべての窓が締め切られ、稼働するエアコンの室外機の風が正面の植木を揺らしている。さすがのおばあもついに、蒸し暑さに耐えきれなくなったのか。

玄関を駆け上がり、居間の戸を開けると、香ばしいサラダ油のかおりが鼻をついた。食卓の上にはアルマイトのバットいっぱいに、黄金に輝く揚げ物がひしめいている。僕がなぜわざわざクーラーの効いている自室を出て、蒸し暑さに耐えながらおばあのところにやってきたのか。それは腹が減っているからだ! そして今、僕の大好物が目の前にある。

祖母がつくったサツマイモの天ぷら

まずはサツマイモの天ぷらをほおばる。厚めの衣の中はまだ熱く、ねっとりとしていて甘みが強い。今日は普通のサツマイモではなく、安納芋が使われている! 水分が多くてパサつかないのでお茶も飲まず2切れを腹におさめた。

祖母がつくったレンコンの天ぷら

次はレンコンの天ぷらに箸を伸ばす。ひと口めは適度な歯ごたえがあり、噛むとイモのようなほくほく感が出てくる。安納芋ほどではないけど、レンコンとは思えないほど甘い。おばあの体感温度は狂ってるのに、食材がおいしく揚がる温度は熟知している。これも1切れでは満足できず2切れを食べた。

祖母がつくった巨大なトンカツをご飯に乗せてカツ丼に

そしてお待ちかねのとんかつは、分厚くてでかい! いつもの肉の1.5倍はある。ごはん茶碗の上に乗せると、ごはんがほとんど隠れて茶碗からはみ出てしまう。今日に限ってひと口サイズに切り分けられていないのは、巨大なとんかつの食べごたえも堪能してほしいという意図があるのだろう。夕飯はおばあの流儀に従うのが僕のつとめだ。

思い切りかぶりつくと、あふれ出る肉汁と脂が熱い。熱いけどうまい! 肉の断面は中心がうっすらとピンク色をしていて、しっかり火の通った外側と見事なグラデーションをつくっている。

ごはんと交互にとんかつをかじり、一気に1枚を平らげた。すぐさま2枚目を茶碗に乗せて食べはじめたところで、ようやく一息ついた。クーラーで冷やされていったん引いた汗が、再び額ににじんでいるのがわかった。

今日、おばあは高温の油の前に立ち、揚げ物を調理していた。だからクーラーがなければ暑さに耐えられなかったのに違いない。気温は夕方でも三十度を超えているのに、そうまでして僕の好物のとんかつを揚げてくれたのは本当にありがたい。

おばあの労力をねぎらうつもりで、僕はいった。
「とんかつ、うまいな。揚げものは暑かったやろ」
「そんなん、暑いうちに入らへん」
おばあは強がりをいう。
「暑くないって、クーラーつけてるやんか。そら、ただでさえ蒸し暑いのに揚げ物するんは大変やろ」
「クーラーは、お前が暑いやろと思て、つけてやったんや!」
おばあは声を張り上げ、上から目線で主張する。とんかつを揚げてくれたおばあには感謝しているし、言い争うつもりはないので僕は口をつぐんで食事に集中した。

とんかつを2枚食べている僕より先に、おばあは食事を終えた。空になった食器を抱えて台所に行ったおばあは、何かを手にして戻ってきた。

小さな円筒の容器のふたを開け、スプーンを突き刺す。それを口に運んだおばあはゆっくりと目を閉じ、総入れ歯の口をもごもごと動かす。至福の瞬間を味わっているようだ。

手元をのぞき込むと、うっすらと霜をまとった容器に入っていたのは、キンキンに冷えて固まった、うす茶色のチョコレートアイスクリーム! やっぱり暑かったんやろ! と叫びたかったけど、ぐっとこらえ、僕も食後に同じものを食べた。

暑いのでアイスクリームを食べる祖母