留守の間におばあがボケた!?野菜づくしの精進メニューと台湾土産の龍眼黒糖

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そら豆とフキとたけのこの煮物など、野菜づくしのメニュー

メニュー
・ナカムラさんの煮物
そら豆、フキ、たけのこ、かんぴょう
・なんきんとじゃがいもの炊いたん
・キムチ
・サラダ
茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・みそ汁(3日め?)
豆腐、わかめ
・??ごはん

サラダに煮物、キムチ……。今晩のメニューは、野菜しかない。たまごでも入っているのかと思ってみそ汁をかき混ぜてみても、浮かんでくるのは豆腐とわかめが少しだけ。

野菜が嫌いというわけじゃないけど、見た感じちょっと物足りない。いつもなら肉か魚の料理が一品は並のぶのに。まさか僕が台湾に行っているあいだ、おばあは毎回の食事で、野菜ばかりを口にしていたのだろうか。

おばあは生まれ育った愛媛の山奥で、子どものころに野菜を煮たようなものしか食べていなかったという。僕がいるから肉や魚を出してくれているけど、実は子どものころから食べ慣れていた野菜づくしの献立が好みなのか。その好みを思い出したおばあは、僕が帰ってきても、肉や魚をメニューに加えたくなくなった、なんてことも考えられる。

筋力が低下して骨も脆くなりがちな高齢者は、タンパク質やカルシウムの多い肉や魚をしっかり食べないと健康でいられないと、テレビの情報番組でやっていた。厳格な戒律を守る修行僧じゃあるまいし、おばあの健康を考えても、野菜だけというのはよくない。せめてもっと豆腐とかごまとか、滋養のありそうなものをたっぷり使った料理を出してほしい。

そういえば、ごはんがない。テーブルの向かい側に座るおばあは、おかずだけを食べはじめている。おばあは夕方にお菓子を食べすぎるとごはんを抜くことがあるけど、僕のごはんを用意し忘れたことはない。

僕が台湾に行っていた数日のあいだで、急におばあの脳の機能が衰えてしまったとか……。おばあの頭の中で治らない病気が進行中だったらどうしよう。

僕は席を立ち、恐る恐る台所に向かった。おばあはたまたま僕のごはんを出し忘れているだけだ。そうあってほしいと願っていた。もし、炊飯器を開けて空っぽだったら、毎晩欠かすことのなかったごはんを炊くという習慣を、おばあは忘れてしまったことになる。そのときは覚悟を決めなければならない。

意を決して台所に足を踏み入れると、電子レンジが稼働していた。「チン」と鳴って停止したので扉を開くと、ラップを張った僕のごはん茶碗が回転皿にのっていた。

おばあがつくった栗ごはん

茶碗の中に入っていたのは栗ごはんだった。おばあはごはんを炊くのを忘れていたどころか、昨秋に冷凍した栗を使った栗ごはんを用意していた。前日に炊いていたものを、僕のぶんだけ残して温めてくれていたのだ。

栗ごはんの入った茶碗を食卓に置くと、おばあが、
「昨日は、食事会やったから、栗ごはんつくって持っていったんや!」
と誇らしげに胸を張った。

“食事会”というのは、おばあと近所の友達が、手づくりの料理を持ち寄って飲み食いする平均年齢80オーバーの女子会だ。秋に冷凍した貴重な栗をたっぷり入れた栗ごはんは、おばあの友人たちに好評だったのだろう。大きめの栗とごはんを口に入れる。栗は半年以上前のものとは思えないほどホクホクとしていて、ほどよい塩気が甘味を引き立てている。

そら豆の煮物というのも珍しいと思っていたけど、どうやらおばあの親友、ナカムラさんが食事会用につくったものをもらってきたらしい。こちらも食べごたえのある食感と自然な甘味が後をひくおいしさ。

これなら肉や魚がなくても大丈夫。そう思ってぜんぶ平らげたけど、正直にいうとやっぱり、ちょっと物足りない。でも今日は、僕が買ってきた台湾土産のお菓子がある。少しくらいの満たされなさは、僕もはじめて食べる異国の甘味を口にすれば解消できるはず。

黒糖は漢方薬にもなる龍眼(桂圓)入り。その缶を開けているそばから、おばあが手でつまんで口に放り込んでいる。僕も食べてみると、少し酸味のあるフルーティな香りがして黒糖に合っていた。だけど肉と魚がなかった満たされなさは、いくら黒糖をかじってみたところで解消できなかった。だけど甘党のおばあの満ち足りた表情を見て、買ってきた甲斐があったと思った。

台湾土産の龍眼入りの黒砂糖、マンゴーゼリー、パイナップルケーキ