メニュー
・ポテトサラダ
じゃがいも、きゅうり、ハム
・煮物
手羽元、厚あげ、糸こんにゃく、ごぼ天
・みそ汁
豆腐、玉ねぎ、油あげ、青ねぎ
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
・ごはん
茹でてつぶしたじゃがいもに、ハムときゅうりを和えたこの料理はポテトサラダ……なのか。僕が知っているポテトサラダは、粘り気が出るくらいじゃがいもがつぶれて他の具材と混ざり合っている。おばあが今晩のおかずにつくったポテトサラダらしき料理は、じゃがいもがつぶれているといっても、固まりがごろごろしているし、ハムときゅうりは混ざっているというより固まりのすき間に挟まっている。それに、ポテトサラダがポテトサラダであるために決定的な何かが欠けているような……。
「いものサラダには、自分で何かかけて食べや!」
そういいながら、おばあが台所から現れた。片手で胸のあたりに持っている皿には僕のと同じポテトサラダっぽいものが盛られている。そこに上から何重にも円を描くように、たっぷりとかけられているのはマヨネーズだ。もう片方の手にはチューブが握られている。
そうだ。マヨネーズがなかったんだ。だからポテトサラダの具材を軽くまぜただけのものになっている。ここにマヨネーズを加えて、じゃがいもをつぶしながらさらに混ぜれば、馴染みのあるしっとりとして滑らかなポテトサラダになるはず。つまり僕の目の前にあるじゃがいもとハムときゅうりを和えたこの料理は、つくりかけのポテトサラダだ。。
ここに「何かかけて」といわれても、マヨネーズ以外に何があるとおばあは思っているのだろうか。他におばあの家の台所にある調味料といえば、和食に欠かせない醤油、塩、砂糖、みりん、味噌……どれも隠し味程度ならいいかもしれないけど、マヨネーズの代わりにはならない気がする。
やっぱりマヨネーズは外せない。そうなると、さらに何をプラスするかが問題になってくる。醤油か味噌で和風にするのも悪くなさそうだけど、実際にやってみて合わなかったら悲しい。僕はこの前、ご近所からもらったポテトサラダをおばあの目の前でおいしいといって平らげた。それでおばあは、見よう見まねでつくってみたのだろう。せっかくつくってくれたのだから、新たな調味料の組み合わせで未知の味を追求するより、確実においしく食べたい。
以前もらったポテトサラダにはたしか、粗びきの黒胡椒が入っていた。そういえばおばあの家には、ラーメンに入れるSBの〈テーブルコショー〉ならあったはず。僕は台所へ行き流し台の脇から〈テーブルコショー〉のうす汚れた小瓶を持ってテーブルに戻った。そして未完成のポテトサラダの上からマヨネーズで円を何重にも描き、小瓶のとっくに切れているかもしれない賞味期限の日付は見ないようにして、きめ細かな胡椒の粉をふりかけた。
それを箸でかき混ぜて口に運ぶ。これはもうポテトサラダ以外の何ものでもない。ねっとりとしたじゃがいもに、ぱりぱりと歯ごたえのあるきゅうりとやわらかなハムの食感が映える。キューピーマヨネーズの適度な酸味とたまごのうま味、黒と白の胡椒を細かく挽いてブレンドしたテーブルコショーのさわやかな辛味がぴったりと合っている。
それにしても、なぜおばあは「自分で何かかけて」なんていったのだろうか。マヨネーズと胡椒という王道の味付けでいいのに。
「マヨネーズ以外に何が合うと思ったんや?」
僕が聞くと、おばあは何かを納得したように大きくうなずいた。
「マヨネーズや! そうや、その名前を忘れとったわ! 分量も好みがあるやろうと思って、お前にかけさせたんや」
どうやらおばあは、マヨネーズという言葉を忘れていたらしい。それに最適な分量がわからなかったので、好みの量を僕自身に入れさせたかったのだ。
僕も納得して思わず大きくうなずいた。ポテトサラダを口に入れると、ひとくち目よりもさらにおいしく感じて、またうなずいた。するとおばあが
「その胡椒入れたらうまいんか」
といって手を伸ばした。僕は小瓶を手渡した。ラベルの賞味期限は汚れとかすれで判別できなかった。