メニュー
・カレー(2日め)
牛すじ、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、謎の肉のカツ
・ベーコンエッグ
たまご、ベーコン、えんどう豆
・サラダ
生:トマト、キャベツ 茹で:ブロッコリー、アスパラガス、ほうれん草
2日目のカレーは、具材がとろけて水分が減って、1日めとはちがう濃厚な味わい。さらにおばあがつくるカレーには牛すじが入っている。煮込めば煮込むほど牛すじのゼラチン質と脂が溶け出し、カレーはよりとろとろになる。しかも牛すじは煮込んでも溶け切らず、やわらかいまま形が残る。
だからおばあは、カレーをつくった次の日も、カレーだけ出せばいい。僕はそれでじゅうぶん満足する。今、おばあはインフルエンザにかかっているのだから、今晩は昨日のカレーを温めるだけにして、ゆっくり休んでいたらいいのに。
でも、同じ料理だけを2日続けて出すことは、何十年も誰かに料理をつくり続けてきたおばあのプライドが許さないらしい。今日のカレーには、ごはんが隠れてしまうほど大きなカツがのっている。このきれいなたわら型をした2センチほどの厚みのカツには見覚えがある。おばあが以前、商店街のスーパーで買ってきた、正体不明の肉を固めて揚げた惣菜だ。
ということは、おばあは今日、インフルエンザにかかっているのに、買い物に出かけたということ。症状は軽く咳は出ていないけど、誰かにうつるかもしれないし、おばあ自身のためにも出歩かず、体を休めて完治させたほうがいい。昨日、僕はそう伝えたけど、頑固なおばあは人の話を聞き入れない。
僕はおばあに話をすることはあきらめ、カツをかじった。衣はサクサクで、中身は練りもののような弾力がある。カレーとの相性も悪くない。ただ、何の肉かわからない。豚肉のようでもあり、魚のすり身のようでもあり、食べ進むごとに疑問が深まる。
別の皿にのっているのはベーコンエッグだ。ベーコンも目玉焼きも、カレーと合いそうだ。たぶんこれも、カレーと一緒に食べるために出しているのだろう。カツを半分食べ終えたごはんの上のスペースに、ベーコンエッグをのせた。
すると、テーブルの正面でカレーをかき込んでいたおばあが声を荒げた。
「そんな食べ方、あかんやろ!」
口からひとつぶ、ごはんが飛んだ。
じゃあ、ベーコンエッグとカレーを前にしてどうしろというのか。このカツの肉の正体はなんなのか。おばあはどうして、2日目のカレーだけを素直に出せないのか。インフルエンザにかかっているのに外出するのか。
僕もおばあに、口の中のものを飛ばしながら思い切り疑問をぶつけたかった。だけど今、おばあにストレスをかけるのはよくない。気持ちがリラックスできないと体も休まらないはずだ。おばあは目が少し充血しているし、さっきの大声もいつもより力が入っていなかった。インフルエンザなんてさっさと治してほしい。
僕はぐりぐりと、半熟の目玉焼きの目玉をつぶした。ベーコンをぐちゃぐちゃにまるめて卵黄にからめ、口に放り込み、数回噛みつぶして飲み込んだ。